『フォレスト・ガンプ』の脚本に学ぶ時空を超える感情

世界大戦後に人々は答えのない世界に放り出され、拡大する第三世界や緊迫する冷戦、人権や環境といった社会問題の数々は、人々の心を疲弊させていきました。そうした1つの出来事としては言い表せない「時代の雰囲気」のようなものを、教科書に並ぶ事実から学ぶことは難しいものです。そんな「曖昧な事実」を伝えてくれるものとして映画を観ることもできます。

『フォレスト・ガンプ』”Forrest Gump”(1995)

先天的に知能指数が極度に低いフォレスト・ガンプの半生を通して、50年代から80年代のアメリカを描くこの作品。

社会の闇に身を落としていく初恋のジェシー、ベトナム戦争で戦死しガンプに夢を託すバッバ、戦争で身体を損傷し絶望するダン中尉のように、社会不安を反映した人物が登場します。そんな彼らと対比的に、フォレスト・ガンプは純真無垢さで幼い頃の母の言葉をひたむきに守り続け、その姿が自然と周囲に癒しを与えていくというストーリー。

これまで紹介した作品と異なり、この作品では歴史がかなりデフォルメされて描かれています。作品中で扱われる「史実」はある種の「寓話」となり、当時のアメリカに蔓延していた社会不安の心情描写が、より普遍的なものに感じられます。

戦争を実際に体験していない日本の若者である僕にも、そして今後この映画を観るすべての人にも、時空を超えて感情を訴え続けることができるのが映画作品の魅力であり、映画を通じて歴史を学ぶことのメリットの1つだと思うのです。

ところで、この作品は前の2つのテーマを題材とした作品と異なり、一人称で歴史を描いています。では、この作品は前の作品より劣っているということでしょうか? もちろんそうではありません。手法は作品の優劣を決めるものではなく、何を表現したいかによって決まるのです。

事実を客観的に描くために複数の視点から描く、寓話的に時代の雰囲気や感情を伝えるために一人称的な視点で描く、どちらも作品を魅力的にする最適な手法です。映画を鑑賞する際に脚本の構成や撮影技術が、何を伝えたくて用いられているのかを意識して観ると、さらに楽しい鑑賞ができるのではないでしょうか。

「人生はチョコレート箱のようなもの。開けてみるまでわからない」という映画冒頭にガンプが述べる母の言葉は、僕の最も好きな言葉の1つです。現代の目まぐるしく動き続ける社会は、人々に一喜一憂を迫り疲弊させていきます。甘いも苦いもその造形も、ギフトの箱を開けたときのような無垢な心で、楽しむ気持ちを思い出させてくれます。

<参考>
『フルメタル・ジャケット』(1987):ベトナム戦争に出向く新兵たちの、訓練から戦闘までを描いた物語。シリアスなストーリーと、心情描写に用いられるコミカルな音楽や印象的な構図は、あの戦争の纏う違和感や不気味さを、感情的に訴えかけるものになっています。

『ファイト・クラブ』(1999):世紀末アメリカに蔓延していた「個人の不在感」を題材にした作品。映画が持つ感情を伝える力は、誰しも抱える社会不安を実感的に伝えてくれます。この作品については、ファイト・クラブのルールその1「クラブのことは口外するな」。ぜひ実際にご覧になってください。

大事なのは「学び続けること」

歴史学者のE・H・カーは「歴史とは現在と過去の絶え間ない対話である」と言いました。歴史を扱う映画はたくさんありますが、それらの作品が歴史をどのように描くか、いつどこで撮影されたか、なぜ描こうと思ったか、そしてあなたがその映画を通じて何を考えるか、それら全てが全て過去との対話だといえます。

冒頭でも書いたように、歴史を学ぶうえで大事なことは何より「学び続けること」だと思います。映画を通して時代の雰囲気を感じ、多角的な視野を得て、何より学ぶことを楽しみましょう! ぜひ面白い映画に出会って世界を広げていってください!