洞窟壁画から四大文明まで

人類は住宅をつくったり道具を使ったりする。それそのものが巧まずして美的感動を与 えることもあるし、つくる人が実用を超えた美的要素を加えることもある。さらに、実用には役に立たないが宗教的な祈りを込めて絵を描いたり、究極的には芸術として鑑賞してもらうことを目的にものをつくったりしてきた。

美術館などでわれわれが見る美術品は上記のようなものの集大成である。だから、アーティストの作品だけが対象ではない。

国宝『井戸茶碗銘喜左衛門(いどちゃわんめいき さえもん』〈孤篷庵(こほうあん)〉は松江藩主の松平治郷(まつだいらはるさと)〈不昧公(ふまいこう)〉らに愛され珍重されたが、つくり手は実用的な日用品を焼いただけで美術的意図はなかったはずだし、朝鮮では評価されず、千利休など日本の茶人がその美を見いだした。

ここで世界史上の美術品を選ぶといったときに、どこまでを美術品と見るか難しいところだ。また、模造品をどう扱うかも難問だ。近代西洋美術ではオリジナリティが大事にされるが、古代ギリシャ、ローマの彫刻などほとんどが模造品だ。中国の名画や墨跡も現物はほとんどなく、われわれが目にするのは普通は模写である。

さらに、美術全集や美術史の本を見ても、西洋絵画など以外については、掲載されているものも、たまたま図版が手に入っただけのものが多く、それがその分野の最高の名品かどうかの検証をしていないことが多い。

中国絵画ですら、十大名品とかいっても北京や台北の故宮博物院にあるもののなかで、という域を超えていなかったりする。

▲台北・国立故宮博物院 イメージ:PIXTA

そこで、ここでは、美術史の流れはフラットに見ていくが、絵画それも西洋のものを中心に、それ以外のものでとくにすぐれたものを加えて構成するという折衷的なものになっていることをお断りしておく。

さて、多くの西洋美術史の書籍で最初に挙げられるのは、2万年とか2万5000年前の人々が残した絵画や彫刻である。原始時代の人々が絵画や彫刻をつくったのは、豊作や獲物が獲れることや健康を祈るためだった。

絵画では、スペインの『アルタミラ洞窟壁画』と『ラスコーの洞窟画』が代表作だ。彫刻ではドイツの『ヴィレンドルフのヴィーナス』やフランスの『角杯を持てる女(ローセルのヴィーナス)』(アキテーヌ博物館)が挙げられる。

人類最古の文明はメソポタミアで生まれたが、そこで表現される内容も含めて重要なの が、『ハンムラビ法典碑』(紀元前1750年ごろ/ルーヴル美術館)である。一方、エジプトでは長く一貫して文明が栄えたし、残っているものも多い。

『書記座像』(紀元前2490年ごろ/ルーヴル美術館)、『ネフェルティティの胸像』(紀元前1340年ごろ/ベルリン・新博物館)、『ツタンカーメンの金のマスク』(紀元前1340年ごろ/エジプト考古学博物館)が代表作だ。

※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。