若いママ・パパにとってはハードルが高い?

若いお母さんたちが足立を敬遠するのは、やはり「怖い」「危ない」「貧しい」という評価が頭の中にこびりついているからだろう。

なるほどこの3点セットが揃っていたら、子育てには向かないと考えるのも無理はない。「いや誤解だ!」といったところで、それはようやく区民が気づいたレベルにとどまり、区外にはまだ浸透していない。

▲若いママ・パパにとってはハードルが高い? イメージ:PIXTA

住宅を購入すれば40年、50年と住み続ける。子育てらしい子育ては、せいぜい10年か15年で終わってしまう。だから、もっと長い目でみる必要があるといったところで、いま頭の中が子育てでハチ切れそうになっている人に、そんな理屈は通じない。

おまけに、家賃が安い足立より、もっと家賃が高い物件を売った方が儲けが大きくなる不動産業者は「安いだけの足立より、こんなお買い得の物件がありますよ」とささやきかける。かくして、足立に住むという選択肢はますます可能性をなくしていく。

若い人たちと比べ、酸いも甘いもかみ分けてきた中高年は、もっと冷静に街を見分ける力を、これまでの経験の中で蓄えている。しかも福祉力に富む足立は、彼らに大きな魅力を感じさせる条件が整っている。だとすれば、ターゲットはここだ。

30代で重視した子育てが終わり、さらには30代だった当時に重視した、もうひとつの住宅選択条件だった通勤が、定年を迎えて意味をなくしても、人々は30代の時点で選んだ街に住み続ける。

そのうちに子どもはすべて巣立ち、年を取った夫婦2人が残り、やがて配偶者が亡くなりひとり暮らしとなる。最後は生活の手助けが必要となり、見かねた子どもは自分たちが住む街に老親を呼び寄せる。

ところが、年を取ってしまうと、新たな人間関係を築くことが億劫になるから、見知らぬ街に引っ越すと日々の生活に張りがなくなる。その後に残っているのは、身体も心も急速な老いだけとなる。

「終の住家」として足立区はオススメ

この悪循環を断ち切る最善の方策は、子どもは巣立ったがまだ身体も心も元気な50代になったら、思い切って「終の住家」を選ぶことだと私は主張し続けている。

このときこそが足立のチャンスだ。50代ではまだ通勤は残るが、足立ならそれほど苦痛にはなるまい。おそらくその歳になると、再び持ち家の購入を考える人は少ないだろうから、高齢者にとって住みやすく、かつ良質な賃貸住宅が用意されていれば、足立に住むという選択肢が大きく高まる可能性が期待できるようになってくる。

もうひとつのポイントは、シルバータウンのように高齢者だけが増えるという事態を回避することだ。

実は、高齢者が暮らしやすいような地域の絆にあふれる街は、30代の子育て世代にも暮らしやすい街となる。親が足立に住むようになり、身近に足立の街を知れば、いまは頭から「パス」と拒否している若い人たちも「結構いい街なんだね」と改めて足立を見直し、足立への一方的な敬遠が間違っていたことに気づくだろう。

▲「終の住家」として足立区はオススメ イメージ:PIXTA

子どもが住む街に親を呼び寄せるから、高齢者は不幸な最期を余儀なくされる。逆に親が子どもを引き寄せる形になれば、高齢者も幸せな老後を過ごすことができる。子ども世代は若いのだから、多少問題が出てきたとしても、それを乗り越えていくことができるはずだ。

もちろんそのためには、街の側で取り組んでいかねばならない課題は少なくない。中高年層にとって、さらに若い人たちにとっての魅力的な住宅を増やしていくことは、その大前提となる。しかし、街は生き物だ。最初に政策的なインセンティブを与えることで好循環を呼び込むことができれば、後は市場原理に任せればいい。

八方ふさがりの感が否めない「足立に住むという選択肢」に突破口を開くための、ひとつの考え方だと思うのだが、いかがだろうか。