北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との電撃会談など世界を驚かすトランプ流。世界の新陳代謝を高め、自国の不利益を許さないアメリカの独自外交とは? それを理解するためのキーワード「不公平=Unfair」を、テレビなどでも活躍中のケント・ギルバート氏が日本人に説明する。
※本記事は、2019年9月に刊行されたケント・ギルバート:著『世界は強い日本を望んでいる』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。
日本は軍事的な案件を国会で議論できないことが問題
大阪G20〔2019年6月開催〕を目前にしたタイミングで、トランプ氏はまたもや、日米安保条約の片務的防衛義務や在日米軍の費用について発言しました。参議院選挙の前にそのような発言をされることが安倍首相にとって有利に動いたかどうかはわかりません。しかし、トランプ氏本人が、日米同盟はこのままではだめだ、と思っていることを私は米軍筋から聞いています。
私は、安保条約を維持することは日本の国益よりもアメリカの国益にとって大きな意味を持つと思っています。日米安保条約は、米国のグローバルな戦略に絶対必要です。
気になるのは、日本は本当に半ば引きこもり状態を続けるつもりなのか、それとも、積極的にアジア太平洋地域の平和のために貢献するつもりなのか、ということです。つまり、本当にアメリカと対等のパートナーになる意思があるのかどうかということが、アメリカの、また世界の今後の大きな関心事になるでしょう。
日本においては、憲法改正も含めて、軍事的な案件が国会で議論することすらできていないことは大問題です。
その間にも、自衛隊のオスプレイは飛んでおらず、F‒35戦闘機も飛んでおらず、沖縄では反対勢力(反米? 反米軍? 反米軍基地? 反日? 反安倍? 中国の工作員? 単なるテロリスト?)が野放し、という状態になっています。自衛隊員に対する待遇は極端にお粗末であり、それも理由の一つになって、欠員しています。
日本の政治家のリーダーシップが問われています。現在は、決して好ましい状態ではありません。
米朝電撃会談が実現できた3つの可能性
トランプ氏は2019年6月30日、南北軍事境界線がある板門店で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と会談し、現職の米大統領として初めて北朝鮮側に足を踏み入れました。
この前日、トランプ氏はツイッターで、《重要な会議を終えた後、日本から韓国に出発する。正恩氏がこれを見ていたら(南北軍事境界線のある)DMZ(非武装地帯)で握手して挨拶するために会うかもしれない!》と呼びかけました。そして、翌日、会談を実現させてしまいました。
電撃会談には次の三つの可能性があると思います。一つ目は「急な思いつき」。二つ目は「以前から水面下で可能性を探っており、前日にサプライズで表明した」。三つ目は「中国が主導権を握ることを阻止するため」。
実は数日前から考えていたようですが、実際の決断は急なものだったようです。とはいえ中国が主導権を握ることをどのように阻止するかを考えていたには違いなく、またその効果も十分にあったと思います。
通常の外交は、官僚が綿密に懸案を調整したうえで、最後に首脳同士が会談し、自国の国益や価値観を守ります。ところが、ビジネスマン出身のトランプ氏は違います。まず首脳会談を実現させてしまうのです。
電撃訪問に関しては批判もありました。米民主党のチャック・シューマー上院院内総務は、「人権を平気で侵害する独裁者(金正恩)にトランプ氏が取り入ることは米国の国益を低下させる」と述べています。
しかし、嫌でも我慢して進めなければならない外交もあるのです。「Hold Your Nose(鼻をつまんで、臭い中へしぶしぶ進んでいく)」です。米朝の場合はトップ同士の関係性がカギを握ります。トランプ流は間違っていないと思います。