台北に所蔵された中国4000年の秘宝

東アジアの芸術も西洋とは交流なく発展したわけではないが、独立性が顕著であることはたしかだ。5000年ほど前に文明の萌芽が見られ、4000年ほど前からは夏、殷(商)、周といった王朝が栄え、紀元前3世紀における始皇帝の統一以降は、強力な統一王朝によって収められることが多かった。

台北の故宮博物院で最も人気のある三大名宝といえば、『毛公鼎』『翠玉白菜』〔ヒスイで掘った白菜〕、『肉形石』〔豚の角煮〕である。

『毛公鼎』は獣を模した3本足を持つ青銅の鼎で、内側に500文字の銘文が刻まれている。漢字の最も古い使用例だ。『翠玉白菜』は光緒帝(こうしょてい)の妃の嫁入り道具で、新しいが世界の宝飾品で最も美しい一品であり最大の目玉である。

▲台北・国立故宮博物院 イメージ:PIXTA

それと並ぶのが『象牙透彫雲龍文套球』という多層球で、わずか直径12センチほどの球の表層に、9匹の竜の彫刻が彫られている。中国人の美意識としては渋い芸術より、こうしたもののほうを評価するようだ。

陶器では、唐三彩では馬に乗る女性像である『唐三彩馬球仕女俑』など。宋の時代の陶器としては、汝窯(じょよう)で焼かれた青磁の『青磁無紋水仙盆』や、定窯(ていよう)の白磁『白瓷劃花蓮紋梅瓶』、明代の景徳鎮の青いコバルトを使った『永楽青花穿蓮龍文天球瓶』、清代の華やかな色彩のものでは『乾隆五彩蟠桃天球瓶』が名品中の名品。

近年に発掘されたものでは、なんといって始皇帝の墓を守る『兵馬俑』だ。山西省大同と河南省洛陽郊外龍門の石窟寺院も見事で、とくに『龍門毘盧遮那仏』は、則天武后をモデルにしたといわれる美しい顔が出色である。

▲兵馬俑 イメージ:PIXTA

中国美術の独自分野は墨跡である。そのなかでも王羲之(おうぎし)のものは、真筆は残っていないが〔あるとすれば唐太宗の墓に収められて未発掘の『蘭亭序』だ〕、長く真筆と信じられ乾隆帝が愛した『快雪時晴帖』は、私が見た美術品でも最も感動したもののひとつ。顔真卿(がんしんけい)の『祭姪文稿』や懐素(かいそ)の『自叙帖』も名品として名高い。

絵画としては、たとえば中国では『洛神賦図』『清明上河図』『富春山居図』『漢宮春暁図』『百駿図』『歩辇図』『唐宮仕女図』『五牛図』『韓熙載夜宴図』『千里江山図』をもって10選という説もあり、偏ってはいるがそれなりにもっともだ。

※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。