19世紀イタリアの名作たち
19世紀のオペラ全盛期をつくったのは、イタリアのジョアキーノ・ロッシーニとドイツ生まれでフランスで活躍したジャコモ・マイアベーアである。イタリアのジュゼッペ・ヴェルディ、ドイツのリヒャルト・ワーグナーが出現してブームは最高潮に達した。
『セビリアの理髪師』(1816年)に代表されるように、軽快でノリがよく、しかも歌手の技巧の見せどころも満載で、劇としての流れも実によいロッシーニのオペラは、ヨーロッパ中で熱狂的に迎えられ、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの名声が霞(かす)んだほど。のちにフランスを本拠とし、最後のオペラは『ギヨーム・テル』(ウィリアム・テル)というフランス語オペラ。祝典オペラである『ランスへの旅』も隠れた名作。
オペラ・セリアの系統を引くが、より近代的な題材を扱った悲劇作品がガエターノ・ドニゼッティの『ランメルモールのルチア』や、ヴィンチェンツォ・ベッリーニの『ノルマ』(1831年)、『カプレーティとモンテッキ』『清教徒』。超絶技巧を必要として一時は廃れていたが、1950年代にマリア・カラスにより再び脚光を浴びた。ガエターノ・ドニゼッティには軽妙な『愛の妙薬』もある。
この路線での最高峰は『リゴレット』『イル・トロヴァトーレ』『椿姫』『ドン・カルロス』『アイーダ』『仮面舞踏会』『オテロ』『ファルスタッフ』などで知られるヴェルディである。
初期作品の合唱曲『行け金色の翼に乗って』を含む『ナブッコ』などでは、イタリア統一運動に呼応して愛国心を発露させた。
その少しあとに日常生活を描いたヴェリズモ・オペラが現れ、ピエトロ・マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』(1890年)やルッジェーロ・レオンカヴァッロの『道化師』(1892年)が登場した。このほかウンベルト・ジョルダーノの『アンドレア・シェニエ』、アミルカレ・ポンキエッリの『ラ・ジョコンダ』、アッリーゴ・ボーイトの『メフィストーフェレ』など。
『ラ・ボエーム』『トスカ』(1900年)、『蝶々夫人』『トゥーランドット』のジャコモ・プッチーニは、美しくロマンティックなメロディーを連ねつつ劇的な効果も発揮することに成功したが、第一次世界大戦を経て世界の娯楽文化の中心はアメリカに移り、映画が娯楽の中心となり、ポップス・ミュージックの登場とともに、音楽劇の主流はオペラからオーケストラでなく、軽音楽のバンドを伴奏にしたミュージカルの時代となった。
戦後のイタリアでもオペラの初演は行われているが、ヴェルディやジャコモ・プッチーニの栄光を引き継ぐのは、ニーノ・ロータのような映画音楽家であるといえよう。
※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。