急増しているアレルギー疾患

腸内環境は、血管疾患以外の脳の健康にも影響しています。小腸は脳に指令を出すこともできますし、脳からコントロールを受けず独自に判断して働ける臓器でもあります。

一方、大腸に関しては、神経系やホルモン等を通じて脳と密接に情報伝達を行っていることが明らかになり、最近では「腸脳相関」(「脳腸相関」ともいう)という言葉も使われるようになっています。

うつ病になると「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンが脳内で非常に少なくなることが知られています。セロトニンを生成するには、その前駆物質(前段階の物質)であるトリプトファンから転じた5‐HTPが必要です。

また、同じく「幸福ホルモン」と呼ばれ、心地よさや意欲、やる気をもたらすドーパミンの生成には、前駆物質フェニルアラニンが必要です。 他にも、睡眠や安心感をもたらすGABA(ギャバ)の生成には前駆物質グルタミンが必要です。

それらの物質は腸から供給され、腸内細菌がその生成を担っています。そのため、腸内環境が悪化してしまう(悪玉菌優位になってしまう)と脳や心の健康にとっても良くない結果を招くことになるのです。

最近ではアレルギー疾患にかかる人も急増しています。食物アレルギー・アトピー性皮膚炎・喘息など、なんらかのアレルギー疾患にかかっている子供は約40%もいます。大人は3人に1人が花粉症だそうです。

アレルギー疾患急増の原因は、生活環境の変化と言われています。 ということは、生活環境によって左右される腸内環境の変化も、やはり大きな要因としてそこに関わっています。

先進国の住人、特に都会人は腸内細菌の種類が減っているという研究があります。それは日本においても同様ですが、特に最近は腸内細菌の種類が少ない子供が多く、アレルギー疾患になりやすいことがわかってきました。

子どもの免疫力を高めよう

理由は衛生的すぎる生活環境にあります。つまり、子供を雑菌から守りすぎだというわけです。

確かにひと昔前に比べると、最近ではなにかにつけて「こまめに殺菌しろ」「抗菌グッズだ」 と菌に対して神経質になって子育てをする風潮が社会に広まってきました。そのため、子供が体内に多様な微生物を取り込む機会も減ってしまったのではないかと言われています。

ヒトは多様な微生物に接触することで、その一部を腸内細菌として体内に取り込みます。そして、それが免疫の記憶になります。そうやってヒトは免疫力を高めているのですが、現代人、特に今の子供たちにはその機会があまりに少ないようです。

結果、腸内細菌の種類が不足し、バランスがとれず、無害なものにまで過剰反応するアレルギー疾患が増えていると考えられます。また風邪などの感染症治療に使われる抗生剤も、腸内細菌を殺してしまうことが問題になっています。

▲子どもの免疫力を高めよう イメージ:PIXTA

腸内細菌のなかには、過剰な免疫反応を抑える細胞を育てるものもあります。そうした多種多様な細菌がいることで、ヒトの正常な免疫力は成立します。ところが乳幼児の頃から抗生剤を頻繁に使っていると、免疫反応に偏りが生じ、アレルギー疾患を発症するのではないかと言われはじめています。 

何ごとも「過ぎたるは及ばざるがごとし」。それは医療においてもあてはまる言葉なのです。