「将来就きたい職業ランキング」〔2019学研ホールディングス調べ〕でYouTuberが1位となり、サッカー選手が2位、野球選手は3位となったが、まだまだプロスポーツ選手に憧れる男子小学生は多い。ド派手なMLBの舞台で奮闘するメジャーリーガー・平野佳寿投手は、子どもたちが正しい価値観を持って夢に向かって挑戦するためにも、まずは大人が“プロの世界”について理解をしなければいけないと言います。
※本記事は、平野佳寿:著『地味を笑うな』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
ニュースでわかる「派手」と「地味」
もしも「地味とは、泥臭く地道な努力の積み重ね。派手とは、ほんの一部の選ばれた天才たちの世界」という印象を持たれているとしたら、それは理解不足です。なぜなら「派手」でいることもまた、大変な努力と労力が必要だから。
現在では、NHK・BS1で夜11時から放送されている『ワースポ×MLB』などでメジャーリーグの試合もたくさん報道されるようになっています。本当にありがたいことです。
そこでメインに取り上げられるのは、言わずと知れた「派手」なスーパースターたち。限られた時間でのことなので、これはまあ当然のこと。
先発したピッチャーが5回、6回と投げたあいだにどんな三振を奪ったか、どんな風に配球したかを丁寧に追っていきます。
またスタメンで出場する野手がいれば、4打席、5打席の内容を紹介。そうすれば、どうしたってそれなりの時間が割かれることになります。
パイオニアとなった野茂英雄さんもそうでしたし、松井秀喜さんやイチローさんもそうでした。いまであればマー君(田中将大)や大谷くんはスーパースターとしてたっぷり時間をかけて伝えられています。ただ「天才」である彼らが、苦もなくその地位にあると思ったら、それは大いなる勘違いになるでしょう。
ちなみに、僕の試合映像も流してもらえますが、その時間はだいたいにして短いものです。地味な中継ぎだから仕方がありません。ですが、不思議なのはビシッと抑えたときは数秒しか流れないのに、打たれて失点でもしたら、いつもよりずっと長い時間をかけて「平野が打たれた」と報じられることです。
アメリカでも大活躍された上原浩治さんが「中継ぎや抑えは、打たれないとニュースにならない」とおっしゃっていましたが、本当にそのとおりです。
「派手」な人も陰ではコツコツ努力をしている
ニュースでの僕の地味な扱いについてはいいとして、スーパースターたちの話に戻ります。彼らがたぐいまれな強靱な体と、才能に恵まれているのは事実だと思いますが、それだけで成功をつかんだわけではありません。
慢心してしまう人は、つかみかけたチャンスを簡単に手放してしまいます。どんなに恵まれた資質を持っていても、努力なしでのぼりつめることなどできませんし、ライバルたちを圧倒しつづけることもできません。
ひょっとしたら、彼らはゲーム開始直前にフラッとスタジアムにやってきて、パカーンとホームランをかっとばしたり、時速160キロの速球を投げたりして、颯爽と帰っていくのではないのか――そんなふうに思うかもしれません。
しかし、そんなマンガみたいな話は、実際にはあり得ません。どんなトップ選手でも、早くからスタジアムに入って、黙々と自分のルーティーンを守って十分な準備をしているのです。シーズン中だって体調を整えるために、栄養に気を遣い、計画的なトレーニングも欠かしません。
もっといえば、1月から自主トレをはじめ、2月にはキャンプインして、シーズン開幕に備えるわけですから、シーズン中だけでなく、ほぼ一年中とてつもなく地味な調整と準備を行っています。どんなに派手に見えても、本当のところはかなり地味な世界にいるのです。
もうひとつ思うのは、誰がどう見ても派手な世界に生きている人の中には、本来「地味な人」を目指していたのに、結果的に派手な存在になった場合もあり得るということです。
たとえばイチローさん。恵まれた体格というわけではなく、卓越した技術と俊足を生かしてコツコツと安打を積み重ねていくプレースタイルは、ホームランと比べれば地味かもしれません。求道者のような性格からも、地味を望むタイプなのではないかと思います。
しかし、たぐいまれなる努力の結果、誰にも真似のできないバットコントロールを身につけ、本人は望まずとも、ド派手なスーパースターになりました。
派手な世界で輝いているスーパースターは、そうは見えなくても人から見えないところで地味な努力を重ねています。プロだから、それがあまり見えないのです。プロとして当たり前のことすぎて、誰もそんなことをアピールしません。
笑ってしまうぐらい別次元のプレーをあっさりとやってのけるスーパースターたちを見ていると、住んでいる世界が違うとさえ思いますが、彼らはけっして才能だけでやっているわけではありません。
その点は勘違いしないでほしいですし、どの世界でもそれは同じなのではないかと思います。