いちばん負担が大きかったのは……エアコン

どんなビジネスを始めるにしても、初期投資はどうしてもかかる。今までプロレスしかやってこなかったから、そのあたりはあまりピンと来ていなかった。

プロレスラーは文字どおり、裸一貫でやる職業。タイツとリングシューズさえあれば、あとは何もいらない。なんならは裸足で闘ってもいいわけで、初期投資とは無縁の世界だ。もちろん、会社としては住むところを与えて、飯も食わせるわけだから、ひとりのプロレスラーがデビューするまでには、それなりの投資はしているものの、やる側の人間は本当に数万円もあれば、試合道具を揃えることができる。いや、先輩がお下がりのシューやタイツをくれることだってある。

しかし、ラーメン屋……自営業の場合がそうは問屋が卸さない。

厨房の中だけではない。お客さんを相手にする商売だから、少しでも快適に食事をしてもらえるような環境は整えていかなくてはダメだ。

いちばん負担が大きいのはエアコンだった。狭い店であれば、そんなにお金もかからないのかもしれないけれど、ウチはラーメン屋としてはかなり広い部類に入るから、大きなエアコンを天井に設置しなくてはいけない。たしか100万円近くしたのかな? ここにテーブルだ、椅子だ、と揃えていったら、もう客席エリアだけで何百万円も消えてしまう。まさに財布の中の1万円札に羽が生えて、一斉にバサバサと飛び立っていくようなイメージだ。

川田さん曰くいちばん負担が大きいのはエアコンだった イメージ:PIXTA

居抜きだろうがなかろうが、ラーメン屋を開業しようとしたら、少なくとも1000万円は開業資金を用意しておかないと、たぶんすぐに足りなくなるだろう。これは最低限、頭に入れておいたほうがいい。

開業資金を回収することすら無理なのでは?という絶望

俺には経営の知識もノウハウもなかったから、あっちに支払い、こっちに支払い、とやっていくうちに、気がついたら1000万円近くかかっていて、資金だけではなく、頭もショートしてしまった。

これだけお金をかけても、このお店の主力商品となるのは一杯数百円のラーメン。原価率を無視して考えても、1000万円を回収するには、毎日、どれだけラーメンを売ればいいのか? いや、「回収するなんて、絶対に無理じゃないか」と、絶望に似た感情を抱いてしまったことを覚えている。

最初はなんにもわからなかったから、業者の人にいろいろとお願いしたんだけど、向こうも商売だから「これは絶対に必要です」「念のため、あれも買っておいたほうがいい」とどんどん勧めてくる。

プロが言うんだから間違いないな、と言われるがままに買ってしまったけれど、あとあとになって思えば「あんなもの買う必要なんてなかったじゃないか!」と思うようなものもたくさんあったし、もっと安く買えたじゃないか、と憤ることも多かった。

初心者だから知らなくて当然、というのは甘えだ。開業前のマイナスを少しでも減らすためにも、そのあたりのリサーチは徹底的にやるべきだと思う。

ここまで読んで、「俺は大丈夫だ」と思っている人がいちばん危険だ、ということも付け加えておきたい