古代エジプトで青は生命の色として好まれた
古代エジプトで青色は、天空・水・ナイル川を象徴し、生命の色として好まれました。そして、ラピスラズリやトルコ石といった青色の天然宝石は、採掘できる場所が限られていたため、大変貴重な物質でした。
そうしたなか、古代人が希少な青色の宝石に代わる、青い人工物を作ろうとしたのは自然といえます。
青白色の合成顔料エジプシャンブルは、紀元前3000年紀から古代エジプトで使われ始めており、世界最古の合成顔料のひとつとして知られています。また、その化学合成技術力は目を見張るものがあります。この青は、青色彩文土器や彫像などに広く使われています。
続いては、ガラスの彩色に用いられたコバルトブルーを紹介しましょう。
古代人は、色鮮やかな青色ガラスを得るため試行を重ねて、新しい鉱物資源を発見します。エジプトの西方砂漠にあるオアシスで見出され、ピンク色の石で鉄明ばんグループに属する鉱物名ピッカリンガイト、和名「苦土明ばん」です。
この明ばんをガラスに加えると、明ばんに含まれるコバルトが着色剤としてはたらき、ラピスラズリにも似た美しい青色のガラスができあがります。
コバルトによる青色ガラスが作られるようになったのは、紀元前15世紀のエジプト。その深く美しい青色は人々を魅了し、古代エジプトで大量に生産されました。
エジプト周辺のメソポタミア地域や地中海地域でも、コバルト着色の青色ガラスが見つかっていますが、これらを化学的に分析すると亜鉛やニッケルが共通して検出され、エジプトで作られた青色ガラスとよく似た、特徴的化学組成を持っていることがわかっています。
当時、エジプト外の地域ではコバルトが入手できなかったため、エジプトで作られた青色ガラスが貴重な交易品となっていたのです。ガラスの顔料の「物質史」情報が、古代地中海交易を実証した好例といえます。