アクアパッツァは「アホな水」?
日 髙 80年代って、まだ日本人がそんなにイタリアに行っていなかったんですね。で、受け入れてくれるところも少なかった。それでも5軒ほど受け入れてくれて、2週間、2週間、2週間っていう北イタリアでの修行のスケジュール組んでくださったんですよ。それがイタリアの地方料理を見に行く旅だった。
Ropia それはすごい、シェフにとって大きな経験ですね。
日 髙 大きかったですね。ほんと、そのアントニオさんがいなかったら、くまなく回れなかったと思います。で、そこに行って、厨房を見せて頂いて、研究生として働くと。ちょっとお手伝いしながら厨房の中で料理作って賄い食べて、休みの日は土地の有名なレストランに食べに行く、もしくはそのオーナーとかシェフが仲間を呼んでくれるんですね。で、うちでこういう田舎料理を食べたらどうだとか。賄いもわざわざそういう郷土料理を作ってくれるお店もいくつかあったんです。
Ropia え! へえ~!
日 髙 地方料理の面白さに惹かれて、いろんなところに行くとたくさんの発見があって、そうこうしている間に南イタリアにアクアパッツァっていう料理があると教えてもらったんです。アクアが「水」でパッツァが「アホな」なので、日本語に訳すと「アホな水」ですよ。風変わりな名前に惹かれて、まずそのお店に食べに行こうと思ったのがきっかけだったんですよ。
Ropia なるほど。じゃあ、ほんとうにその期間がなかったら、もしかしたらこのお店の名前も違っていたかもしれないんですね。
日 髙 その通りです。
Ropia 地方の郷土料理に惹かれて料理の勉強をされたと伺いましたが、その当時ってたぶん、フランス料理が洋食だとメジャーだったと思うんですね。なぜイタリア料理の道を志したんでしょうか?
日 髙 もともとフランス料理から修行が始まって。
Ropia そうですよね。
日 髙 フランスの三ツ星店『アラン・シャぺル』が神戸のホテルに出店していて、そこで自分の恩師である上柿元ムッシュの下で修行をしていたんです。で、当時いろんな人がフランスから帰ってきたんですが、有名なシェフはみんなオーラがあるのね。そこで「俺は果たしてこのままフランス料理を勉強していて、この人たちに追いつくことができるのか? それどころか、シェフとしてやっていけるのか?」と不安に感じたところもあったんです。
Ropia なるほど、なるほど。