8月15日(土)の有観客ライブ『RUN! RUN! LIVE! 2020』は無事に幕を閉じた。なぜここで「無事に」という言葉を使ったのか? それはここに至るまでさまざまな困難があったからである。

当日、多くのプレッシャーがかかる中で、いかに感動のライブを成し遂げたのか? そこにはアメフラっシ、スタッフの奮闘だけではなく、観客たちの「声なき声援」があったことを忘れてはならない。

自然と沸き起こった拍手がメンバーに勇気を与えた

2020年8月15日。

アメフラっシは、じつに181日ぶり(つまりは半年ぶり、である)となる「有観客ライブ」を、よみうりランド内にある日テレらんらんホールで開催した。わざわざ「有観客」という但し書きをつけなくてはいけないのが、2020年夏の悲しい現実である。

しかも会場内は三密を避けるために客席のあいだを空け、半分以上の客席を✕マークで封鎖していた。さらに入場時には、観客の健康チェックを何重にも行うだけでなく、開場前の密状態を事前に回避するため、座席によって集合時間を細かく分け、たくさんの人が入場ゲートに押し寄せることがないような工夫もされていた。

そして場内では「マスク着用」が義務付けられ、公演中は「コールや声援」が全面的に禁止された。アイドルのステージは、客席からのコールが一体となって完成形になる部分もあるし、コールを叫ぶことを楽しみに会場に足を運んでいるファンも少なくない。そんな楽しみを奪われた観客は、心からライブを楽しめるのだろうか?

声を出すことができないから、メンバーに直接、感想を伝えることすらできない。そこでメンバーは、そういう状況下でもライブを楽しむための方法として

「楽しんでいるときのポーズ」
「好きな曲が始まってワクワクしているときのポーズ」
「推しメンにかわいいと伝えるときのポーズ」
「次の曲でラストと言われて悲しみを表すポーズ」

などを考案し、それを観客にレクチャーすることで、無言でもコミュニケーションがとれるような方策を練っていた。

コロナ禍での試行錯誤。

今日、ここから新しい試みをスタートさせよう、という4人の心意気が見てとれた。

午後4時。

オンタイムに客電が落ち、場内が暗くなると客席から大きな拍手、そして手拍子が沸き起こった。まだステージにアメフラっシの姿はない。それでも舞台裏で歓声を聞いているであろうメンバーたちが安心できるように、そしてステージに出てきやすいように、心をこめたあたたかい手拍子で場内はいっぱいになった。

だが、そのときメンバーは舞台裏ではなく会場の外にいた。ステージ奥の扉が開閉するという会場の特性を活かして、オープニング曲に合わせて扉がゆっくりと開くと、そこからメンバーがひとりずつ登場。4人が揃ったところで、ふたたび扉が閉まり、そこからライブがはじまる、という演出が用意されていた。

外からステージに登場するには、階段を昇らなくてはいけない。メンバーはその階段を昇るごとに客席の様子を、ちょっとずつ目にすることになる。

トップバッターの市川優月は「一段、昇った時点でお客さんの姿が見えて……もう泣きそうになった」と語る。

この有観客ライブが決定したとき、誰よりも泣いて喜んだのが市川優月だった。その涙の最大の理由は「私たちはファンのみなさんに支えていただいているのに、みなさんの顔を見てライブができないから、ちゃんとお返しできているのかどうかわからない。やっとファンのみなさんの顔を見てライブができる」だった。そういう思いが強いから、お客さんの顔を見た瞬間、涙が出そうになるのは当たり前のことである。

でも、いきなり泣いてしまったら、せっかくライブを楽しみに足を運んでくれたお客さんに最高のパフォーマンスをお届けすることはできない。

だから、市川優月は涙をこらえた。