早朝から並んで飲んだ昭和の労働者
川崎はいい町です。駅前はずいぶん新しくきれいになりましたが、すこし歩けば、飲み屋が軒を連ねている。どこを歩いても、とにかく飲み屋が目に付く。この町の人は、酒を飲まないとやってられないんじゃないかって思うほど、あちこちに酒屋があって、どこも客が入っている。この街には競輪と競馬、2つの公営ギャンブルもあります。きっとここは労働者の安息の地で、だから私はこの街にいると落ち着くんでしょう。
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福来屋は1933年創業に歴史ある酒屋さんです。かつて、この一帯には労働者が集い、周辺には酒屋が並んでいたとか。お店は朝8時のオープンですが、その昔は開店前から店の前に酒を求めるおじさんたちが列をなしていたそうです。
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扉をガラッと開けると奥行きのある作りの店内。どうやら壁のテーブルで立って飲むすスタイルなんでしょう。店内にはなぜか膏薬の匂いがします。先客の誰かが病院帰りなのかしら。診察の帰りに思わず飛び込んでしまったのかしら、なんて想像したり。暮らしに寄り添っている感じがする飲み屋っていいですよね。さっそく奥のカウンターで注文しましょう。
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この日は夕方に訪れたので、あまり残っていませんでしたが、魅力的なつまみばかりが並んでいます。塩辛、なすの煮浸し、梅干し。酒飲みの気持ちを完全に掴み切った怒涛のラインナップ。これはたまらん。なにより安い。聞けば、惣菜をお土産に持って帰る人もいるとか。たしかにどれもうまそうだ。目移りして悩ましいけど、とりあえず、ニラ玉とレモンサワーを注文してお代を払います。
こういう店はたいていキャッシュオン。お財布と相談しながら酒を飲む感じも悪くない。「今日は1000円だけにしよう」と思っても、いつも予算オーバーしちゃうのは誰の話かしら。
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見てください、このすばらしい組み合わせを。ニラの緑と玉子の黄色の鮮やかなコントラストに、サワーグラスが清涼感を与えています。もはや一幅の絵画ですね。
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まずはサワーをひとくち。うんうまい。まだ陽が高い中を駅から歩いたもんだから、汗がシャツを濡らしていたのですが、この一杯が、身体中にじわーっと染み込んでいくのを感じます。いやあうまい。焼酎は濃い目で、喉の奥がひりっとするのがたまりません。立ち飲みの正しいレモンサワーという感じがします。
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横で飲んでいる担当オジマのナスに目を奪われつつも、注文したニラ玉をいただきましょう。お。味付けがしっかりしているのは鶏ガラスープかな。ニラが想像以上にたくさん入ってるから「贅沢に使うんですね」って聞いたら「1わ全部入れちゃった」と店番をしていたお母さんから気前のいい答えが返ってきた。
いいなあ。店を切り盛りしているのは3代目で、そのお母さんもまだ現役でお店に立っているんだって。惣菜はぜんぶ手作りって言ってたから、その日の朝に何を作ろうか考えるんでしょう。酒飲みが喜びそうなものを用意して待ってくれるから、私たちも今日はどんなつまみがあるのかなって、わくわくと心躍らせのれんをくぐるんです。いいないいな。こういう店は日本全国でチェーン店にして展開して欲しい。