“ドカベン”こと香川信行さんの闘病生活

過食・肥満といえば、糖尿病の合併症で2014年9月に急死した“ドカベン”ことプロ野球選手の香川伸行さんが思い出されます。香川さんは、アルコールを一切口にしなかったそうですが、大相撲力士のアンコ型のような体形で、100kgを超える体重は最高時150kgあったとか。

大阪・浪商高校時代は牛島和彦さんとバッテリーを組み、甲子園では3年時の79年春に準優勝。夏は4強に進出し3試合連続本塁打の離れ業を演じ、その体形と強打から水島新司の漫画『ドカベン』の主人公をほうふつとさせ、それがニックネームとなりました。

明るい人柄と巨体、ユーモアにあふれる言動で老若男女を問わず人気が高く、一躍人気選手となり、卒業後はドラフト2位で南海ホークス(現ソフトバンク)へ入団。引退した89年の登録サイズは身長1m70㎝、体重120kg。10年間の通算成績は714試合で460安打、打率255で78本塁打、270打点。残した数字以上に「記憶に残る」選手ですから、52歳の若さで亡くなったときは多くの野球ファンがショックを受けたのではないでしょうか。

香川さんは糖尿病の持病があったため、合併症の糖尿病性腎症になり、腎不全による人工透析へと進行し、太い血管が侵され、ついには心筋梗塞に至ったという経過があるそうです。

心筋梗塞は「心臓が栄養としている冠動脈が閉塞や狭窄などを起こして血液の流量が下がり、心筋が虚血状態になり壊死してしまった状態」で「心臓麻痺・心臓発作」とも呼ばれています。

わかっていても“放置してしまう”リスク

糖尿病はひとたび発症すると治癒することはなく、放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こし、末期には失明したり透析治療が必要となることがあります。

「もしも、あのとき」といった話ですが、糖尿病初期に徹底した食事制限を行って体重を減らし、血糖値をコントロールする生活を続けていれば「もっともっと長生きできた」のではないでしょうか。

120kg以上も体重があっては、さまざまな内臓に負担があったことでしょう。専門医の立場からすると、じつは日常の生活改善と血糖コントロールがきちんとできてさえいれば、糖尿病はこわい病気ではありません。

ところが困ったことに、糖尿病はどこかが痛いとか苦しいとか熱があるとかいった自覚症状がないまま病状が進行するため、“わかっていても放置して”やがて香川さんのように深刻な合併症に至ってしまうケースが多いのです。

▲わかっていても“放置してしまう”リスク イメージ:PIXTA

きちんとした生活改善を行い血糖コントロールをしていれば、糖尿病の患者さんは糖尿病ではない普通の人よりも健康になれると私は考えています。香川さんのように過体重や肥満のある人は、摂取エネルギーを平均して1日当たり約200キロカロリー減らすことが、糖尿病予防につながることがわかっています。