小説『1984年』で描かれた監視社会が現実に
中国はご存じの通り大変な監視社会です。監視カメラ市場は現在、中国が圧倒的なシェアを占めています。14億人の人民を絶えず監視する必要があることから、世界一のマーケットになっているのです。
中国メーカーはたくさんあります。監視カメラは最先端技術の結晶なので、中国のハイテク産業が活きる分野でもあります。しかし、それらの技術の多くはもともと日本やアメリカから来たものです。
中国で電子決済が日本よりもはるかに普及しているのも、監視社会が背景にあります。キャッシュレス経済を通じて個人の生活や消費行動がデータ化され、共産党政権のもとに集められているのです。中国で生活している人々からすると、自分の手の内をすべて政府に知られるわけですから、たまったものではありません。
全体主義国家によってハイテクが活かされるというのは、本当に恐ろしいことです。中国の監視システムには、人々の自由を奪うという目的があります。まさに、イギリスの作家ジョージ・オーウェルが小説『1984年』で描いた恐るべき監視社会が、中国共産党の手によって実現されようとしているのです。
中国は今や、その監視システムを全世界に広げようとしています。その尖兵になっているのが、中国の大手通信機器メーカーであるファーウェイやZTE(中興通訊)です。
すでにアフリカのネットワーク通信は、ほぼファーウェイのシステムに取り込まれ、中国式の監視システムそのものが、アフリカ各地の独裁政権や独裁者に輸出されているという現実があります。
また同様に、カンボジアやミャンマーなどの東南アジアの国々にも、中国のハイテク機器の普及とともに中国式の監視システムが浸透しています。すでに中国はハイテク産業を通じて、それを受け入れた地域に強い政治的な影響力を持っているのです。
アメリカは、オバマ政権までは中国のハイテク覇権の動きを容認していました。むしろ、アメリカのハイテク産業の収益にもつながると喜んでいたほどです。
トランプ政権や香港の若者が気づいた危険性
しかし、トランプ政権がその危険性に気づきました。そのためトランプ政権は、単なる経済や貿易の問題としてではなく、安全保障の問題として、ファーウェイやZTEをアメリカから排除しようとしています。
日本もアメリカにならって、経済と安全保障を一体のものとして対中戦略を立てていかなければなりません。中国をこれ以上膨張させないためにも、日本政府は、企業の投資先が国内に向くよう、日本経済を復活させる責任があります。それと同時にもっと本気で“脱中国”を推進しなければなりません。
さもなければ、これからも日本のおカネと技術はどんどん中国に流れ、日本の脅威、さらには世界の脅威となって“還元”されてしまいます。
せっかくコロナショック前には、米中対立で窮地に追い込まれていた中国経済を、日本のおカネと技術が救うことになってしまうのです。我々日本人にとって、これほどバカげた話はありません。
ありえない日本の財政破綻のリスクよりも、現実として起きている中国の膨張によるリスクのほうが、よっぽど「次世代にツケを回してはいけない」大問題です。そういう意味では、コロナショックは大変なチャンスを日本に与えてくれたと思います。コロナショックがなければ日本の政財界は「脱中国」など考えようともしなかったはずです。
全体主義国家の中国がこのまま膨張を続けていく限り、今の香港で起こっている問題は、いずれ日本でも起こり得ます。中国の影響力はすでに日本の経済界に浸透し、地方にも波及し始めています。政府も、国会も、中国に対してはまともに文句すら言えないのが現状です。
これがいかに恐ろしいことであるかを、我々日本人は、香港を必死で守ろうとしている若者たちから学ばなければなりません。
※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。