親子が過ごしたかけがえのない6日間

交代で休憩をとりつつ、迎えた次の日の朝。

満開の桜。その花びらが、アズサと小キリンのいる宿舎にも入ってきました。僕たちは生まれてきた彼女に、サクラという名前を付けました。

僕たちはサクラのために、アズサのオッパイを搾りました。ほんの少ししか出ませんが、アズサの愛情と免疫が入った初乳。サクラに与えると、美味しそうに飲んで笑顔を浮かべているように見えました。

サクラが生まれてから3日目。アズサはまだ立ち上がることができません。

体力がだんだんなくなってきているのか、立ち上がろうと頭を振る回数も、確実に減っています。首を曲げ、頭を背中に乗せて休む時間が増えていました。

サクラには、大きな哺乳瓶で人工のミルクをあげて飼育を続けたところ、しっかりとした足取りになり、寝室を走り回るぐらい元気になりました。走り疲れるとお母さんのところへ行き、曲げている首にくるまれて眠りにつきます……。

そんなアズサとサクラのかけがえのない時間を彩るように、2頭のまわりを桜の花びらがヒラヒラと舞っていました。

サクラが生まれて6日目の朝。アズサは、自分の背中に頭を乗せて寝ているサクラを起こさないように、そっと頭を上げ窓の外を見ていました。サクラと一緒に、アフリカの広い平原を走っているのを想像していたのでしょうか。

▲アズサはこんな風景を思い描いていたのかな イメージ:PIXTA

やがて頭をゆっくり下げ、寝ているサクラの顔を舐めながら、自分の首で優しくサクラを包み込みました。その姿は聖母のようで、とっても優しい笑顔。アズサもサクラと一緒に眠りにつきました。

そしてその後、アズサが再び頭を上げることはありませんでした。

アズサとサクラが一緒に過ごした6日間。親子にとっては幸せで大切な時間だったのかな……。

新米の獣医師だった僕に、命の誕生の美しさと尊さ、親子の絆をアズサは教えてくれました。これからも、アズサから学んだことを胸に動物たちと真摯に向き合っていきたいです。

今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。

「スーパー獣医 Dr.北澤のどうぶつ事件簿」は、次回11月24日(火)更新予定です。お楽しみに!!


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