菅政権のイメージを壊してしまった

そのうえで、菅政権の一連の対応は、明らかな戦略ミスだったとも考えています。政権発足時のウォーミングアップ段階で求められるのは、とにかく姿勢を低く保ってミスを極力減らすこと。

今まで学術会議が推薦する候補者をそのまま任命してきたのに、その慣例を破れば反発が出るのは、考えればわかることです。そこに発想が及ばなかったとすれば、それは政治家としての想像力の欠如というほかありません。

菅総理の最大の特徴は、イデオロギーの匂いがしない“無色透明”なところです。8年近い官房長官時代も、政治的に中立な実務型として多くの国民に印象づけてきました。政権発足後に打ち出している携帯電話料金の引き下げや不妊治療の保険適用なども、派手さはありませんが政治思想とも無縁で、自民党を批判する層の国民も文句の言いようがありません。

ところが、今回の件でそのイデオロギー色が着いてしまった。「実直でまじめな政権」というイメージでこれから船出をしようというときに、せっかくのイメージがぶち壊しになったということです。

結局のところ、そのような才覚を働かせることのできる側近や官僚が、周りに不在だったということが言えるでしょう。わたしが「菅総理の周りに優秀なブレーンがいない」と述べる理由はそういうことです。

おそらく菅総理は、この日本学術会議の任命ということについて、意味をよく理解していなかったのでしょう。そこで「総理、ここは拒否すべきです」と側近に言われ「そういうものか」と、深く考えずに決めたのではないかとみています。

▲明らかに戦略ミスだったと語る舛添氏

支持率回復に必要な「バイデン大統領」との関係

菅総理は、さまざまな分野で「参与」のような形でブレーンを集めているのですが、中にはかなり長期間にわたって仕えている人もいる。そうなるとどうしても外の景色が見えてこなくなりますし、外の空気にも鈍感になりがちです。

また、菅総理を取り巻く参与の中には「言葉」のプロフェッショナル、すなわち「演説」のエキスパートを担当する専門家がいません。今回の任命問題に関する国会答弁、もちろん書いたのは官僚でしょうが、あまりに説得力にかけた稚拙な内容でした。

パフォーマンスをしろとはいいませんが、政治家にとって言葉は大事です。大臣経験者のはしくれとして言わせてもらえば、国会答弁では官僚の原稿を下敷きにしながらも、微妙なニュアンスについては、国民の反応をイメージしながら自分のセンスで変えていったものです。

いずれにせよ、新型コロナに国をあげて取り組まねばならない政権スタートのこの時期に、このような政策的に優先順位の低い問題で足をすくわれたのは、大きな戦略ミスだったというほかありません。

おりしも、米国では民主党のバイデン氏が大統領に就任しそうです。バイデン氏と菅総理とは、甘いもの好きやお酒を飲まない点などで共通するなどと言われていますが、菅総理がバイデン氏と親密なパートナーシップを構築することができれば、支持率も回復して政権運営の追い風になってくれる可能性はあります。今後の推移を見守りたいところです。

≫≫≫第3回に続く