新型コロナウイルスによって年末年始の過ごし方が問われていますが、そんな状況下で、注目したいのが人間が本来持つ「免疫力」です。免疫力が整っていれば、たとえ感染しても重症化しないと言われています。腸内細菌研究の第一人者である藤田紘一郎氏によると「笑う」ことが、免疫力に関わってくるようです。
※本記事は、藤田紘一郎:著『免疫力 正しく知って、正しく整える』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。
免疫力の30パーセントは「心」でつくられる
免疫力の70パーセントは腸でつくられます。では、残りの30パーセントはどこでつくられるでしょうか。答えは「心」です。免疫力には心のあり方も大事なのです。
ただ、心というと、ちょっと漠然と感じるかもしれません。そこで医学的に説明すれば、内分泌系や神経系の刺激ということになります。内分泌系は、身体の働きを高めたり、抑えたりする調整係で、内分泌物はホルモンとも呼ばれます。神経系は脳のなかで身体の各部に指令を出す監督係です。
このホルモンと神経系と免疫という三者は、密接にかかわりあいながら、私たちの健康を守ってくれているのです。
ところが、この三者の連携に影を落とすものがあります。精神的なストレスです。現代はストレス社会とも呼ばれるほど社会が複雑化し、私たちはストレスを負いやすい環境で生きています。そのため、精神的ストレスが原因で起こる病気が増えました。
この種のストレスは、自律神経の交感神経の働きを強くして、脳のなかで「ノルアドレナリン」や「コルチゾール」というホルモンを放出させます。
ノルアドレナリンは脳内で興奮性の伝達物質として働き、不安や恐怖、怒りの感情にかかわります。こうした感情を私たちが感じているとき、血管が収縮して血流が滞り、免疫細胞の働きも低下しているのです。とくに、ノルアドレナリンには抗体やマクロファージの活性を落とす作用があります。
またコルチゾールも、ストレスを感じているときに脳内の量が増えるホルモンで、免疫システムともっとも関係のあるホルモンです。T細胞などのリンパ球をアポトーシス(細胞死)に導くのです。これは、炎症を抑えるために人体に備わったシステムであり、炎症を悪化させないためには、適度にコルチゾールが働くのは必要なことです。
けれども、人がストレス状態に長く置かれてコルチゾールの分泌量が増えすぎると、リンパ球が減って、免疫力を著しく低下させることになってしまうのです。
ストレスは免疫力を低下させる原因になる
人間にとって、新たな感染症と対峙することほど過酷なストレスはありません。死のイメージと強く結びつくからです。恐怖や不安などの感情もストレスホルモンを分泌させ、免疫力を低下させて、うつ病を起こす原因になります。
私たちは、大昔と異なり、恐怖をはるかに学習しやすい環境に生きています。インターネットやテレビ、携帯電話などの出現で、時間や場所を超えた学習がスピーディにできるようになったためです。しかしこれは、免疫力を低下させやすい環境でもあるのです。
新型コロナウイルスが拡大するなか、マスクの着用や外出の自粛を求められ、人々は手や周辺のものを一生懸命に消毒しました。感染の危険性は「今日は何人感染し、何人が死亡した」という数字とともに報道され、感染者の情報は世間にさらされました。
感染は芸能人やアナウンサーなど情報発信力のある人たちにも広がり、報道する側は行動の自粛を国民に求めました。そうして情報を受けとる側は、一人一人の行動のあり方をおおいに問われる立場に置かれ「ステイホーム」の合言葉のもと、家にこもる生活が続きました。
そこにあったのは、新型コロナウイルスという新しくて正体がなかなか見えてこない敵に対する恐怖、もしくは恐怖に対する不安でした。
そんな恐怖を訴える情報があふれ、人との接触を避ける暮らしは、たしかに感染拡大を防ぐためには役に立ちます。けれども一方で、免疫力を確実に低下させてしまいます。ストレスが強すぎるからです。これは、感染のリスクを高めることも意味します。
こうしたストレスを感じやすい状況下で、自分の免疫力を守るためには、冷静さを保つことが重要です。ストレスを感じさせるような情報や人たちからいったん離れるという選択が必要なときもあります。
自分では免疫力を高める努力を日々行い、本当に必要で正しい情報だけを見て、今ある時間を自分のために使おうと考える。これだけでもストレスはやわらぐものなのです。