「プレッシャー」を自在にコントロールし、指導者として数々の勝利を手繰り寄せてきたラグビー元日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ。しかし、自身の選手時代は、大事なセレクションでプレッシャーに負けた過去を持つ。知られざる挫折と、1冊の本を読んで得た気づきを聞いた。

※本記事は、エディー・ジョーンズ:著『プレッシャーの力』(ワニブックス:刊)より一部抜粋編集したものです。

選抜チームでの練習でプレッシャーに負けた過去

私は選手時代、プレッシャーという魔物に蝕まれ、失敗をした手痛い過去がある。

20代半ば、地元シドニーの強豪クラブ、ランドウィックでラグビーを続けていた。1軍に定着しチームの主力を担い、試合での活躍が認められシドニー州選抜チームから招集の声がかかった。地域の他クラブに所属するレベルの高い選手たちと共にプレーできることは非常に名誉であり、選手として大きなステップアップを期待できる。

そこで興奮と同時に、これまでに経験したことのない緊張状態に陥った。

シドニー選抜の初練習日。現役のオーストラリア代表選手に囲まれ、さらに緊張が高まる。そして「ラインアウト」の練習が始まった。フッカーというポジションは、スクラムだけでなく、ラインアウトでも核となる。ラインアウトで私は、タッチラインの外から、味方フォワードに向けてボールを投げ入れるという大きな役割を担っていた。

ラインアウトの成否は、ボールを投げるフッカーとキャッチするジャンパーのコンビネーションであり、私の責任は非常に大きい。

ラインアウトでは、味方フォワードの前に敵フォワードも一列に並び、闘志を剥き出しにしてボールを奪い取ろうと待ち構えている。選抜チームだけに、ラインアウトを読む能力も高い。私が投げるボールの位置が数センチずれたり、タイミングがコンマ数秒ずれるだけで、ラインアウトは失敗する。

ここで私に期待されているのは、いいボールを投げて、ラインアウトを成功させること。

だがこの時、周りの選手たちのレベルに圧倒され、自分のプレーが通用しないのではないかという不安に襲われた。気づけばボールを持つ手が、汗で濡れていた。ジャージーで汗を拭き、落ち着こうとしたが、とにかく汗が止まらない。滑ってボールがまともに投げられないほどに手のひらに汗をかき、結局この日の練習では散々なプレーに終わった。