「外側のゲーム」と「内側のゲーム」という考え方

そう、私は完全にプレッシャーに押しつぶされたのだ。目標としてきたシドニー選抜で、自信を持ったプレーが何一つできなかった事実に打ちのめされた。

どうにかして次回までに何か変化をつけようと、当時まだ新しかったスポーツ心理学という分野の、ある1冊の本を手にとった。それが『The Inner Game of Tennis』(Timothy Gallwey:著)だ。

この本によると、全てのスポーツゲームは、外側と内側の二つの側面から構成されている。

外側のゲームとは、実際に目の前にいる相手に対するゲームで、内側のゲームとは、自分自身に対する精神的なゲーム。そして、内側のゲームの最大の敵は、不安や自分に対する疑念であり、この敵に勝つことにより、外側のゲームにも勝つことができる。

つまり、自分の頭の中で考えていることは、行動として表に現れる。ミスを恐れ、不安が頭を支配しているときは、恐れているミスそのものを犯してしまう。

本を読み終え、あの日の練習についてよく考えた。

あの時、自分が戦い、負けたのは、外側ではなく内側のゲームだった。なぜならそこには、いいプレーをしなければならないという強迫観念と、周りの選手に太刀打ちできないのではないか、という不安にがんじがらめになった自分という敵がいたから。

ラグビー選手としての技術とは全く関係のない部分で、大きなミスを犯していたことに気づいた。

変化とは一夜にして起こるものではない

こうした不安や緊張状態を、自分の意図でコントロールする術を学べば、今回負けた内側のゲームの敵、自分に勝つことができるだろう、という結論にたどり着いた。

まず、心配してもしかたのないことを心配して、不安に陥ることを避ける。これを、自分の意識下でコントロールすること。

シドニー選抜の練習では、初めて目の当たりにする全国レベルのプレーに圧倒され、自分だけこのレベルに達していないのではないかという、余計な心配にかられた。客観的に見れば、ランドウィックでの活躍が評価されて選抜チームに招集されたのだから、無意味な心配であったことは明らかだ。

もちろん、この本を読んで劇的に変化し、シドニー選抜の2回目以降の練習がうまくいった、というおめでたい単純な結末ではない。

しかし、自分で作り出したネガティブなプレッシャーにより、内側のゲームに負けて得られた教訓は、時間をかけて腑に落ちていった。自分の中に潜んでいた弱い自分を鍛えるために必要なのは、時間である。

結果的に、この時間を通して自分の弱点を克服し、さらなる成長を遂げた、と今振り返っても思う。変化とは一夜にして起こるものではなく、時間をかけていくしかない。

私が選手時代に経験したこの挫折は、指導者としてのその後のキャリアにおいても、大きく活きている。