目標にアプローチする手段はいくらでもある
ところが、気がつけばいつしか「Future Shock」は、その活動を終えており、中心にいたブルヤスくんのこともあまり聞かなくなっていきました。
フェイスブックのメッセンジャーで久しぶりに話したのは、たしか2010年代半ば。まだ社会全体に、東日本大震災の余波が残っていた頃だったと思います。
どんなやりとりをしたのかも明確に記憶してはいませんが、ひとつ印象的だったのは、ベトナムを拠点としてアジアのストリート・カルチャーを支援するような仕事をしている、と聞いたこと。
初めて姿を現した時のことも「Future Shock」を成功させたことも、彼のやることはすべて予測不能だったわけですが、その話もまた予想外でした。
しかも、ここにきてまたしても予想の上を行く展開が。
なんと、今度は自伝的な本を出版したというのです。『スカイ・イズ・ザ・リミット ラッパーでもDJでもダンサーでもない僕の生きたヒップホップ』(市村康朗+公文貴廣:著)がそれ。
ドキュメンタリーと寓話が抱き合わせになったような、ちょっと変わった構成なのですが、読んでみたら彼がこれまでにやってきたことの意味、あるいは知りたかったことの真相などが、よくわかった気がしています。
ニューヨークで暮らしていた時期、彼は「アフロアメリカンじゃない自分も、このヒップホップ文化の一部として生きていきたい」と感じ、進むべき道を模索していたようです。
ラッパーでもDJでもダンサーでもなく、ましてや日本人なのに、何ができるのかと。しかし、ニューヨークでアーティストたちを筆頭とする、さまざまな人たちと交流した結果、ひとつの答えに行き着きます。
今回は、それを「神フレーズ」にしたいと思います。
「そうか、ステージに立つ以外にも、この業界にアプローチする手段はいくらでもあるんだな」それからの僕は、表舞台に立つラッパーやDJだけでなく、レーベルオーナーやプロデューサーといった、ヒップホップ業界の「裏方」に関する情報収集にも重きを置くようになっていった。
(22ページより)
それが、ブルヤスとしての活動につながっていくわけです。
でも「この人だけのことでしょ」などとは思ってほしくないと思います。なぜならこれは、あらゆる目標を目指す、すべての人が応用できる発想だから。
「○○をやってる人と自分とは、住む世界が違うから」という理由で気になっていることを諦めてしまうとしたら、それはまったく意味のないこと。大切なのは「では、○○をやってる人とは違う自分には、何ができるだろう」と考えることであり、おそらくそれが、目標を実現するために大切なことなのです。
つまりブルヤスくんは、この本を通して、そんな考え方や行動の大切さを実感させてくれたのです。