「アバンダンで、あきらめる」

このジョークをご存じでしょうか? これは、受験の世界で言われるジョークです。

受験勉強のために学生が、英和辞典を丸ごと一冊暗記しようとします。最初は、「A」とか「AAA」といった単語を片端からていねいに暗唱したり、ノートに書き写していくのですが、やがてその膨大な記述に対応するのが大変になっていきます。そうして、「abandon」という単語にたどり着いたところで、この勉強方法をあきらめるというわけです。

abandonは、頭文字が「AB」ですから、辞書の最初のほうにある単語です。でもそこまででも、すべての内容を暗記するなんてできるわけがありません。(そしてabandonの意味は「あきらめる」なのです)

仕事でも勉強でもそうですが、一切の手抜きができない人というのは、必死に完璧を目指した挙句、途中であきらめるという傾向があります。周囲から見ているとよくわかるのですが、本人は自分が「アバンダンで、あきらめる」のコースにはまっていると、気づきにくいのでしょう。

「仕事では手抜きを一切しない」というジョーク

もちろん、英和辞典を丸ごと一冊頭に入れられれば、少なくとも英語のテストはよい点が取れるでしょう。しかし英和辞典とは、英語の専門家がひとりではなく複数人で、何年もかけて編纂(へんさん)するものです。

受験前という限られた期間で一冊丸ごとの知識をつけられるはずがないことくらい、常識で考えればすぐわかります。それ以前に、大学受験にそこまでの知識は必要ありません。

「手抜かりが一切ないところを目指す」ということがそもそも非常識であり、非現実的なのです。そんな理想は、もはや理想ですらありません。可能性が0%のモノを目指すというのは、理想にすらならないわけです。ジョークでしかありません。

手抜きをするということは、常に悪いというわけではありません。必要なときだってあります。また、そもそも手抜きが一切ない仕事を成し遂げようという目標自体、理想ですらなく、ジョークなのです。