ラグビー元日本代表・廣瀬俊朗さん。エディー・ジョーンズ指揮時代にキャプテンを務め、その圧倒的なリーダーシップでチームを結束させたレジェンドだ。また、2019年に放映されたTVドラマ『ノーサイドゲーム』での好演も記憶に新しい。現役時代も、そして挑戦を続ける現在の人生にも影響を与えたエディーの教えとは?

フレンチ・バーバリアンズ戦での苦い思い出

エディーさんがかけるプレッシャーには、たしかに凄まじいものがあった。

2012年からラグビー日本代表として、エディー・ジョーンズのもとで戦った仲間たちなら皆、同意してくれるはずだ。

僕らはエディーさんの指導のもとで強くなった。その要因のひとつは、エディーさんの考え方や発想法がこちらに伝わったことで、僕らのマインドセットが変わっていったこと。エディーさんは、その手段のひとつとしてプレッシャーを使った。間違えてほしくないのが、プレッシャーだけで僕らは強くなれたのではない。僕らが強くなるためにプレッシャーが使われたのだ。

エディーさんはよく「グッド・ルーザーになるな」と言っていた。日本には「負けたけれど、いい試合ができたからよしとしよう」という、敗北を簡単に受け入れてしまう文化がある。それは選手やチームだけではなく、メディアや協会、そしてファンの人たちにも染み込んでいる。

皆さんも贔屓(ひいき)のチームの試合を見て「負けてしまったけど、いい試合だったよね」と口にした経験があるかもしれない。しかし「それじゃ一生勝てない」というのがエディーさんの考え方だった。

ドキッとさせられたのが、2012年フレンチ・バーバリアンズとの試合後に行われた会見だ。

「選手が苦笑しながら話し始めたとき、私は怒りを抑えることができなかった。なぜ、こんな無様な試合をした後で、笑えるのか」

そう、エディーさんが怒りを向けた“選手”とは、当時ラグビー日本代表チームのキャプテンを務めていた僕のことなのだ。あの試合については、決して一生懸命やっていなかったわけではないし、僕としてもいろんな思いがあった。だけど結果的に「何がなんでも勝ってやる!」という気迫が見えない試合になってしまったのは間違いない。

そうした意識を変えるため、エディーさんのプレッシャーはすごかった。あらゆる面でエディーさんの要求に応えなければならない。練習中でさえ、いや、練習中だからこそ絶対にミスは許されない。そんな緊張感があった。