気まずさよ、こんにちは

同じ場所に配達が続くと、注文者の生活が見えてしまうこともあります。

コロナ前の話になりますが、去年のある日、金曜日の夜に向かったのは東京の下町にある洋菓子店。お店で渡されたのは、チーズケーキ・プリン・シュークリーム・アップルパイなどの大量のスイーツ類。配達先を確認して自転車で15分。私のような、しがない中年独身ライターは一生住めないであろうマンションに到着しました。

袋いっぱいに入ったスイーツを受け取ったのは、20代と見られる若い女性でした。「置き配」制度がまだなかった頃のこと。おそらく女性は帰宅してメイクを落としたあとなので、恥ずかしかったのでしょう。少しだけドアを開けて商品を受け取ろうとしたのですが、ものすごく大量に買われていたので、小さな隙間から商品を入れることはできません。

いろいろと事情を察した私は、大きくドアを開ける直前に目を伏せて袋を渡すと、女性は奪うように袋を取り、部屋のドアを閉めました。

▲スッピンさんにお届け イメージ:PIXTA

それから30分後、今度は深夜まで営業しているクレープの店へ受け取りに行く指示があり、お店へ行くと袋の中には生クリームたっぷりのクレープが3つ。人気あるんだなと思いながらアプリで配達先を確認すると……先ほどの女性ではありませんか!

齢46。医者から血糖値やヘモグロビンR1Cの数値をうるさく言われるメタボ体型。そんな私ですから、深夜に甘いものが食べたくなる気持ち、そして一度食べたら食欲が加速してしまう気持ちはよくわかります。

とはいえ、向こうはいいところにお住まいの若い女性。先ほど大量の洋菓子を届けたばかりの配達員が再びやって来るとなると、とても気まずいはず。

今のような「置き配」があれば問題ありませんでしたが、当時はどうしても顔を合わせなければいけないシステム。どう顔を合わせたらいいものやら、と悩みながらペダルを踏んでいると、結論が出ないうちに再び先ほどのマンションに。

▲背徳的においしい深夜のスイーツ イメージ:PIXTA

とりあえず「目だけは絶対に合わさない」ということだけを決めて部屋へ。インターホンを鳴らして、ドアが少し開くと「彼氏がどうしても食べたいと言うから……」と言い訳をしながら、先ほどよりソフトな感じで袋を受け取る女性のお客様。顔を見ず、下を向いたまま商品を渡すと、そっとドアが閉められました。

限られた時間のなか、必死に言い訳を考える彼女の姿が思い浮かぶような言葉でした。

下を向いていたため、玄関に男物の靴が一足もないのを目視していますが、下を向きながら「ありがとうございました。またご利用ください」と声をかけ、その場を去りました。