世界各国で人種や文化、習慣が違うように、我々が日々口にしている“お菓子”も、その国、その地域でまったく異なる顔を持っているもの。ただ、身近なものがゆえに、深い根っこの部分まで触れられることはありませんでした。ですが、各国のお菓子の裏側にあるストーリーというのは、実に興味深く、面白いものだったのです。

その魅力を、これまで世界50カ国以上、500種類以上のお菓子と出会い、「現地のお菓子を、現地で、現地の人々と一緒に作る」ことでそれらの裏側にある物語を学んできたパティシエの鈴木文さんが、西洋からお菓子が伝わり独自の進化を遂げた『南米のお菓子』について語ります。

※本記事は、鈴木文:著『旅するパティシエの世界のおやつ』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

ヨーロッパのお菓子文化にオリジナリティが融合した南米

アンデス文明発祥の地として知られる南米。15世紀には、北はエクアドルから、南はチリまでをも支配していたとされるインカ帝国によって、その文明は最盛期を迎えることに。

しかし、スペイン人の征服によって帝国が終焉を迎えると、16世紀以降はスペイン、ポルトガルを中心とした植民地支配の時代へと入りました。

19世紀以降、パラグアイを筆頭に現在の南米諸国が次々と独立を果たすことになりますが、「ラテンアメリカ」という呼称が象徴するように、約300年間続いた植民地時代に深く浸透したラテン系の言語や文化は、それぞれの国や地域に現在まで受け継がれています。

その歴史は、お菓子文化にも色濃く刻まれていました。

南米で出会った多くのお菓子が、スペインをはじめとするかつての宗主国から伝わったもの。

しかしそれらには、コーンの粉、ココナッツ、キャッサバという芋の粉などがメインの材料として使われ、それが結果として南米らしいアレンジとなり、それぞれの国や地域の“郷土菓子”として定着していました。

なかでも特筆すべき、ラテンアメリカならではのお菓子のパーツといえば、「ドゥルセ・デ・レチェ」。

スペイン語で“牛乳のお菓子”という意味で、コンデンスミルクを長時間加熱してキャラメル状にしたもの。南米版キャラメルクリームとして、南米大陸の大半の地域に浸透しています。

さまざまなお菓子に多用されていて、特にスペインから伝わったとされるアルファフォーレスは、ドゥルセ・デ・レチェを使ったお菓子の代表格で、南米各地で必ずと言っていいほど出会えました。

一方、特産のフルーツがある地域ではお菓子にその要素が加わり、酪農が盛んな地域ではチーズをお菓子としても食べるといったように、旧宗主国が同じでも、国や地域によって少しずつ表情の違う文化に出会えるのも、南米のお菓子を巡る旅の楽しみ。

今回は、実際に南米を旅したなかで特に印象深かった国々のお菓子を紹介します。

▲ヨーロッパのお菓子文化にオリジナリティが融合した南米