欧米のみならず、アジア圏内においても、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が遅れている日本。果たしてその大きな原因はどこにあるのか? 元・官僚であり、医師の父を持つ、政治経済評論家の八幡和郎氏が緊急提言。いわゆるキャリア官僚には、技官と呼ばれる技術系の人も多い。彼らは、その専門分野の技術者“マフィア”の一員だ。
役所や医師会ではなく医師のモラルが批判されるべき
「ワクチン接種を高齢者より医療関係お手盛り優先は日本だけ」と書いたが、どうしてこんな非常識なことになったのだろうか。
新型コロナが流行し始めたころに、医療関係者の感染防止が大きな課題になった。なにしろ、中国やヨーロッパでは病気の正体がわからず、最初は普通の風邪などと同じような対応をしていたので、スペインでは感染者の何割かが医療関係者だとか、イタリアやフランスでは大量の死者まで出た。
その結果、いわゆる医療崩壊が起きたので、横浜港でクルーズ船の問題が起きたときにおいて、医療関係者への感染防止が優先されたのは、それなりに意味があった。
しかし今では、医療関係者が感染しないようにするにはどうしたらいいか、という対策も整理されてきたので、それほど深刻な事態にはなっていない。医療崩壊というのはベッドが足りないとか、そういう問題であるからだ。
また日本では、医療関係者の死亡がほとんどないとみられている。昨年の7月に兵庫県の医師が労災死の認定を受けたのと、8月に石川県で看護師が亡くなった以外の報道はない。ほかにもう少しおられるかもしれないが、スーパーのレジや飲食店などに比べて、とくに罹患率が高いということも聞かない。
4月8日にCNNが「全米で3,600人の医療従事者がコロナで亡くなっている」と報じているのとは根本的に違う状況であって、日本の医療関係者はしっかり自分たちを守っているようである。
それに前回、各国の例を説明したが、医療関係者の範囲が広すぎる。最初、医療関係者優先と聞いたときは、コロナ病棟や発熱外来の医師と看護師など、コロナ患者と接触する可能性のある医療関係者だけだと思っていた。そんなものは、よほど広く見ても何万人かだろう。
ドイツでは80歳以上の高齢者と同等に扱われるのは、上記のようなコロナ患者と直接濃厚に接する人たち、癌や臓器移植などで感染すると死に至る可能性が高い患者と、彼らに接する人に限られている。普通の開業医などは、60歳以上の一般人やスーパーの店員と同じ扱いだ。
フランスでは、長期介護施設の職員などが入居者と同数に限り優先されているが、それ以外は75歳以上の高齢者が終わってからだ。つまり、コロナ患者と接触する「可能性」が高いくらいでは優先権はないのである。
ところが日本の場合は、ややこしい書き方をしているが、患者と接触が直接になくても、病院で働いている人や出入りしている人までが多く含まれている。眼科医でも歯科医でもなんでもいい。いじましい医師たちは、同じ病院にいる以上は、どこで感染するかわからないとか、眼科にだってコロナ患者が来るかもしれないというが、それはもうスーパーの店員と同じ確率だ。
医療関係者は、高齢者と接触することが多いのでワクチンを優先させるというが、高齢者がうつされるのは医療機関より家族からが多い。ドイツでは、80歳以上の高齢者の家族は誰でも2番目の順位で、コロナ病棟などではないが感染リスクが比較的高い医療関係者と同じに扱っている。