技術的基準づくりを委ねられている“マフィア”の存在
海外を見渡して、私は優先されるべき医療関係者は数万人かと思っていたら、300万人ほどが最初から予定されていたそうだ。さらに基準が曖昧なまま、医者に「あなたの診療所で該当者のリストを出せ」というアンケートなどするから、あっという間に480万人に膨れあがったのである。
どうも、医療関係者から「優先的に自分たちに接種しろ」という要求があり、海外での状況なども調べようともせずに決めたらしい。
ここで大事な論点になるのだが、悪いのは医者でなく厚生労働省だ、という弁解が医療界から出る。
しかし、それは霞ヶ関の行政の仕組みを知らない素人の考えだ。「官僚」というと、典型的には東京大学法学部を出た「事務官」がイメージされる。事務次官などの枢要ポストの多くを占めており、大臣の黒子でもある。
ところがいわゆるキャリア官僚には、技官と呼ばれる技術系の人も多い。そして、技術的基準づくりは、彼らに実質的に委ねられている。
そして彼らは、その専門分野の技術者“マフィア”の一員だ。私はあえて、マフィアという言葉を使いたい。たとえば、建築基準などは、国土交通省の建築技官の独占領域で、彼らは学会や民間の建築家と密接な関係を保ち、人事交流もしながら、彼らの論理で基準を決める。
医療・薬事行政も同じで、医者でもある医務官が主役だ。たとえば、23人の歓送会で糾弾された課長は、東北大学医学部を卒業したお医者さんだったし、尾身茂先生だって厚生労働省での勤務経験があるし、彼らはWHOに派遣されることもあって、世界の医者マフィアの一員でもある。
だから、医者が厚生労働省は頭が固いとか言っていても、基本的には医者仲間の内部対立だ。しかも、内部対立と言ってもガチンコではない。互いに自分のシマを守り、他人の専門分野には、ちょっかいなど出さないのである。
つまり、医療関係者優先という非常識は、彼らのお手盛りなのである。しかも、そのプロセスが表に出ることは少ないのである。
高齢者施設入居者や従業員への緊急接種を指令するべき
だが今回、たまたま会議の議事録に痕跡が残っていた。
『アゴラ』というネット・メディアに、永江一石というストラテジストが「日本だけ高齢者より医療従事者のワクチン接種を優先」という記事を書いておられる(4月7日)。
この表題になっている欧米との比較は、2月29日に私が同じアゴラに書いた「医療関係者のお手盛りワクチン優先接種は日本だけ」とタイトルも含めてほぼ同内容だが、後半で「第43回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 議事録 厚生労働省」という議事録を引用されているのは、たいへん興味深い。
それによると、委員の池田俊也国際医療福祉大学公衆衛生学教授と磯部哲慶應義塾大学法務研究科教授が、医療関係者優先という方針がおかしいということを指摘されているのだが、厚生労働省の林予防接種室長は、あの尾身茂さんが分科会長をつとめる「新型インフルエンザ等対策有識者会議 新型コロナウイルス感染症対策分科会」が決めたことだからとかで、“高齢者施設の従業員を優先すべき”ということは議論にすらならずに、押し切っているのである。
これは、かなりスキャンダラスである。世界の国々では、高齢者施設の入居者とそこの従事者が一番に優先されるべきだ、というのが基本的な流れである。なのに、尾身茂会長たちは、漫然とコロナ患者と接触する可能性も一般人以上に低く、また感染したとしても、高齢者などにうつす可能性も一般人とたいして違わない人たちも含めて、自分たち医療従事者を守らねばならないと、勝手にお手盛りで決めたのである。
そういう議論をすると、医療関係者からは「線の引き方が難しいから480万人全部にするしかない」という反論がくるが、医療関係者のなかでも、各都道府県などで優先順位を工夫して設定しているのだから、線を引けないということはあり得ないのである。
新型コロナで命を落とすのは、80歳以上が半分くらい。さらに言えば70歳以上が全体の80パーセントである。まず、病院や施設に入っている高齢者に接種すべきであって、のんきに眼科や美容整形の医者や看護師、そこに出入りしている業者などに接種することを優先したなんて信じられるだろうか。
本来なら、そういう高齢者こそが2月に接種すべきだったのに4月以降にした。しかも、そのやり方を頑として変えようとしない厚生労働省の医務官や尾身茂先生たち、それを決めた分科会の委員たちは、ワクチンがいき渡る6月あたりまでに感染して命を落とす高齢者の全員に対して道義以上の責任を問われるべきだと思う。
少なくとも、今すぐにでも、高齢者施設入居者や従業員への緊急接種を指令し、また、医療関係者でもコロナと関連が低い人は、高齢者などのあとで接種するように指示を出すべきだ。