エゴサして、そっと「いいね」を押します(笑)

――電子書店員としての意外な発見や驚いたことなどはありましたか?

Kino中川 ものすごく多くの人が新刊が配信された瞬間、つまり配信日の00時になった瞬間にその本を読みたい、という熱い気持ちを持っておられることですね。電子書籍が今のように流通する前は、リアル書店の開店時間に一番乗りでお店に駆け込むことが最速の入手手段でしたが、電子書籍の場合は日付が変わって配信日になったタイミングで、当然ながら新刊をゲットすることができるようになります。

特に人気コミックの場合など、その瞬間のアクセス集中がすごいので、サーバーがパンクしないよう細心の注意を払っています。それでも、どうしても障害が起きてしまうことがあり…お客様には申し訳なく、くやしい思いをしています。

――人気タイトルの発売日が重なると大変ですね。

Kino門田 別々の出版社さんの人気タイトル新刊が同じ日に出る、という事もよくあるので、先手は打つようにしてますね。

Kino中川 話題になっている作品は、それこそ1秒でも早く読みたい人が多いですからね。

Kino中川 電子書店員として面白さを感じるところで、もう一つあるんですけど、例えば『鬼滅の刃』(集英社)の最終巻が出た際に、そのときに初めて『鬼滅』を買おうという人もいらっしゃるんですよね。リアル書店だと1巻から23巻までを並べるスペースが必要で、もちろん売りたい気持ちはやまやまなんだけども、そのスペースを確保することにちょっとためらってしまうところがあったりします。

でも私たち電子書店は、そういう悩みがまったくありませんので、全巻まとめて「ここにあります」と出せば、お客様も「全巻揃ってるなら、まとめて購入しましょう」なんて人も少なからずいらっしゃったので、それも面白さの一つだなと思いました。

――たしかに。100巻くらいだとちょっと悩みますけど、20巻くらいなら勢いで買っちゃったりしますからね。ちなみに電子書店員としての苦労や悩みなどはありますか?

Kino門田 リアル店舗と違い、購入してくださっているお客様の顔が直接見えない、お話しできないことが電子書店員にとっては弱点と言えるかもしれません。こうしたらきっとお客様が喜んでくださるだろう、と思いながら運営をしているわけですが、お客様が実際どう感じておられるかを知る機会がなかなかないので……なので、ついついTwitterでエゴサしては一喜一憂したり、そっと「いいね」を押したりとか(笑)。

――公式Twitterだと関わり合い方とかが難しそうですが、わりと自由な感じなんですか。

Kino門田 そうですね。もちろんルールは守りつつですが、お客様との交流から元気をいただいたりしています。

――人間味のある感じなのが良いですね。あと……ちょっと聞きづらいですが、これはやってしまった! というような失敗談などはありますか?

Kino門田 失敗談ですか(笑)。う~~ん、そうですね。もともと本好きが高じて紀伊國屋書店に入社したのですが、Kinoppyの担当になった当初は、電子書籍を全力で売りつつも「やっぱり本と言ったら紙でしょ」という意識がどうしても抜けず、初めて電子書籍を自分で購入したのは、担当してから1年以上経ってからでした……。

もちろん、今では「電子めっちゃ便利! 家が狭くても全然平気だし、どこでも持ち歩けるし! みんな、電子って最高だよ!」と心から思っています(笑)。むしろ自分のなかに抵抗があったからこそ、お客様にとっての電子書籍のハードルに、どうアプローチをすればいいのかっていうのは、当時の自分が参考になることもありますね。

――ちなみに、今は紙と電子の割合的には?

Kino門田 そうですね、紙6:電子4くらいなってますね。

――もちろん電子はKinoppyで?

Kino門田 Kinoppyでしかないです(笑)。

――当然でしたね(笑)。今、新しく取り組んでいることなどありますでしょうか?

Kino中川 これは門田が中心となって取り組んでいるんですが、Kinoppyは今年、おかげさまでサービス開始から10周年となりました。この10年は群雄割拠の電子書店戦国時代だったわけですが、そのなかでKinoppyがここまで成長してこられたのも、お客様、出版社様、作品を生み出してくださる著者の方々あってこそだと深く感謝しております。

その感謝の気持ちをこめて、2021年3月26日から6月30日まで「10周年記念キャ ンペーン」を展開中です。

5月21日からは、対象作品が最大85%OFFになる「出版社横断ビッグセール!!」を開始しました。(セールは6月3日まで) このあと6月にもお楽しみ企画を準備中ですので、ぜひサイトを見に来ていただければうれしいです。

〇Kinoppy10周年記念特設サイト

――10周年! メモリアルですね。最後に電子書店の今後についてお聞かせください。

Kino門田 電子書店業界は、今後もまだまだたくさんのストアがしのぎを削る状態が続くと覚悟していますが、一方で電子書籍自体は昨今の情勢が追い風になり、今後ますます需要が増していくと思われます。そのなかでKinoppyが、どんな立ち位置を求められているのか、紀伊國屋書店だからこそできることは何か。それを常に見失わず、多様な本の選び方をご提供することで、お客様の豊かな読書ライフを応援できればと思っています。

あとは、紀伊國屋書店としての伝統を大事にしつつ、時代の変化に応じた新しい形も常に模索していければと。より多くの人に読書を楽しんでいただけるように、Kinoppyでは電子書籍ならではの機能などを紹介しながら、本を読む形の選択肢を増やしてご提供していけたらと考えています。

▲本への愛、そしてマスク越しでも素敵な笑顔の門田さんと中川さん

――本好きに寄り添った新しい形を期待しています! Kinoppyの門田さん、中川さん、ありがとうございました。老舗書店としての信頼と、お客様との近い距離感を大事にしている電子書店Kinoppyの今後の展開を楽しみにしています!


〇紀伊國屋書店の電子書籍(Kinoppy)