「知的でマニアックな本」が売れるようになった

――ちなみに、時間ができたら……ということですが、具体的にどのようなことをやりたいのでしょうか?

Kino門田 弊社も公式アカウントを持ってまして、私ともう1名の2人で、いわゆるTwitterの“中の人”をやっているんですが、もっとお客様との交流を増やせたらなと。それにTwitterを連動した売り方を研究したりとか、あとは出版社さんからご提案いただいたフェアだけではなく、こういう企画をやりたいというプランを立てて出版社さんにご提案して、弊社ならではのキャンペーンというのをもっと企画していけたらと思ってます。

――Twitterの中の人は、かなり大変ですよね。

Kino門田 Twitterもそうなんですが、サイト運営をするなかで他書店さんがどんなツールを使っているのかは気になりますね(笑)。たとえばフェアページの作成なら、データを流し込めば自動で綺麗なページが完成! みたいな感じなのかなと予想してみたり。

弊社では、お客様の好みに合わせてフェアの対象タイトルを個別にカテゴライズして(笑)。本当にリアル店舗の棚を作り込んでいくようなイメージで作っていたりするので、手と目とエクセルをフル活用している感じです(笑)。

――自動で抽出するのではなくて、人が選んでというのはリアル書店のようですね。ちなみにフェアは月に何本ぐらいあるんでしょうか?

Kino中川 同時並行的に全ジャンルで常時50本とか60本とか。

――おお、それを毎月ですか?

Kino中川 これをだいたい週替わりで更新していきますので、月当たり実際にはそれ以上の本数になると思います。

――それは中の人が足りなくなりますね(笑)。

Kino門田 だいぶ足りないです(笑)。

Kino中川 文芸は毎週数本くらいあって、コミックはその何倍かあって、みたいな感じでジャンルごとに違いは多少ありますけども、押し並べて常時そのくらいはありますね。

――Kinoppyさんならではの売れている本やジャンルなどはありますか?

Kino門田 世間では電子書籍と言えばコミックでしょ! という人がまだまだ大多数かと思うんですが、弊社ではコミック作品に負けないくらい、文芸書・ビジネス書・実用書などのテキスト作品も売れていますね。出版社さんの間でも「文字ものに強い電子書店」としてご認識いただいているぐらいで、芥川賞・直木賞のような文学賞を受賞した小説が、ストアランキングを長期間独占することも日常茶飯事です。

昨年からのコロナ禍においては、コミックやラノベの大人買いも目立っていますね。また巣ごもり需要なのか、これまで以上に「おうちでできる趣味」「知っているとかっこいい教養」関連の本がぐっと伸びています。

Kino中川 教養ですよね、やっぱり。自分で使える時間が増えてきているので、趣味を深めたいとか、あの頃のあれをやってみよう、みたいな。そういう趣味の本、自分の知的な好奇心も高める実用書みたいなものが、最近よく売れているんじゃないかなと思います。

具体的な例を出すと、年末年始に『すしのサイエンス』というのが売れたんです。

▲すしのサイエンス: おいしさを作り出す理論と技術が見える(誠文堂新光社:刊)

「お寿司を科学する」がテーマの本で、日常生活に必須の知識ではないけれども、知っていると話のネタになる、カッコいい、面白いみたいな、知的好奇心を満たすマニアックな本が、とくにコロナ禍になってからすごく売れてます。

話題のコミックやラノベと一緒に、このような「知的でマニアックな本」がランキングに肩を並べる事がよくありますね。

――表紙に握りと“SUSHI”の文字のシンプルさが、科学っぽくてカッコイイですね! おふたりの個人的な「推し本」はあったりはしますか?

Kino門田 少し違うのですが、実はKinoppyは海外配信も行っていて、海外にお住まいのお客様でもご購入いただける電子書籍をたくさん配信していまして、 海外で日本語の紙の本を買うと日本で買うより高い、入手までに時間がかかる……のようなお悩みを持っておられる人も多いかと思いますが、そんなときこそ電子書籍をおすすめしたいですね!

それから、Kinoppyには「プレゼント機能」という便利な機能があって、大切な人に電子書籍をプレゼントとして贈ることができます。お誕生日プレゼントにマンガ全巻とか、頑張る友人におすすめのビジネス書で応援とか、インターネットさえあれば完結してしまうので、時間も手間もかからないし、あと電子書籍を今まで使ったことがない人に、すでに使っている人から「これいいよ」って、おすすめしていただき、自分が読むだけではない電子書籍の活用の仕方が、もっと広まればいいなと思っています。

▲Kinoppy 電子書籍プレゼント

――電子書店員としての仕事で感じる「面白さ」などありますか?

Kino門田 そうですね。新刊でなくても、光の当て方次第で過去の名作・旧作に再び息を吹きこんで、在庫を気にせずリアルタイムでいくらでもお客様の手元に送り出すことができるところは、電子書店員ならではの腕の見せ所だと思っています。

例えば、深夜番組で人気芸能人が取り上げていた本など、メディア露出が高まると紙の本は品切れだったりとかで手に入らなかったりしますが、電子書籍ではそういうことがないので、翌朝に出社した瞬間に大きくピックアップしておすすめできる。紙では入手困難なほど人気が高まっている本を「ウチならすぐ読めますよ」――スッと差し出せるのは気持ちいいですね(笑)。

なんでも身軽に動けるっていう自由さは常々感じているので、その分ちゃんとポイントを押さえておかないと。電子書店ならば、どこでもそれができてしまうので、なんというか気が抜けない面もあるんですけど、面白いなって。

Twitterなどで反応しているのと同じスピードで出せるっていうのは、電子書店ならではだなって思いますね。

――これ読みたい! がサイトのトップページにあったりすると買っちゃいますね。

Kino中川 あとは、リアル書店でフェアを実施しようとすると、本の入荷日程などを計算したうえで実施しなければいけないので、計画しても半月から1ヵ月ぐらい時間がかかってしまうケースがありますが、電子書店の場合は在庫やリードタイムとかを考える必要がないので、思いついたらすぐできるっていうところも面白いところですね。

――棚の見せ方ってことですよね。

Kino門田 そうですね。リアル店舗での“悩みのタネ”である、在庫をどこに持とう……という心配が電子書店では不要なものの、やはりお客様の目に触れる「棚」の面積は有限なので、どう効果的に見せるか、というのは我々も常に課題意識を持っています。

ただ、棚の入れ替えに物理的な移動が伴わないので、お客様の反応を見ながら柔軟に対応できるのが電子書店の良いところ。これはこう! とガチガチのルールはあえて定めず、各担当者がお客様の温度感を探りながら日々工夫したりしています。