8月17日、アフガニスタン情勢を巡る問題について、アメリカのバイデン大統領と、イギリスのジョンソン首相は電話で会談し、G7によるオンライン会議を今月中にも行うことで合意したことが報じられました。一見歩調が合っているように見える両国の代表。しかし、浅からぬ因縁があると、元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫氏と前ロンドン支局長の岡部伸氏が語る。
※本記事は、馬渕睦夫×岡部伸:著『新・日英同盟と脱中国 新たな希望』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
ジョンソンとバイデンの因縁はオバマ政権時代から
馬渕 トランプ・安倍時代なら、ファイブ・アイズに日本が入ってシックス・アイズになるか、あるいは台湾が入ってセブン・アイズになって、いわゆる「自由で開かれたインド太平洋構想」の要になるというのが理想的なシナリオだったと思います。
しかし、ディープ・ステート政権とも言えるバイデン政権ができてしまった以上、それがすんなりいくかどうかは大いに疑問ですね。今後の米中関係がどうなるかによっては、大きくシナリオが違ってくるかもしれません。
岡部 そうですね。おっしゃる通りです。たしかに、対中姿勢に不安を抱えるバイデン政権では心もとないところがあります。
馬渕 そういう不安要素がまだありますよね。それから、先ほどの岡部さんの分析そのものには同意するんですが、ジョンソン政権の立ち位置というのはいったいどうなっているのでしょうか?
というのも、ジョンソン首相はバイデンに祝辞を送った、最も早いうちのひとりでした。ジョンソンさんは今、いったい何を考えているのでしょうか?
岡部 まず大前提からお話しすると、率直に言って、米英関係は一般論としてバイデン政権になると悪化すると言われています。ジョンソンとバイデンの因縁は、オバマ政権時代にまで遡ります。
オバマは大統領就任後まもなく、それまでホワイトハウスの大統領執務室に置かれていたウィンストン・チャーチル(1874〜1965)の胸像を部屋から撤去したんですよ。それに対して当時ロンドン市長だったジョンソンが、オバマのイギリス訪問時に「あいつはケニアの血が入っているから、大英帝国にコンプレックスを感じているんだろう」と口にしました。有名なジョンソンの“舌禍事”のひとつです。
馬渕 たしか、ジョンソン首相はチャーチルのことを尊敬していましたよね。
岡部 はい。自分でチャーチルの評伝を書くほど崇拝しています(『チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力』 石塚雅彦・小林恭子訳、プレジデント社、2016年)。
でも、そんなこと言われたら、当然オバマだって怒りますよね。これでオバマ政権とジョンソンは非常に険悪な関係になってしまいました。
そして、皆さんご存じの通り、当時の副大統領がバイデンです。
こうした過去の因縁もあるので、バイデン政権のアメリカとジョンソン政権のイギリスでは非常に相性が悪い。
バイデン政権で米英関係が悪化するだろうと思われるもうひとつの理由は、バイデンはアイルランド出身なので、ブレグジットではどちらかというとEU残留派、つまりジョンソン首相の離脱には反対の立場だったということです。
これまではトランプもEU離脱派だったので、ジョンソンとは馬が合っていました。トランプもチャーチルの胸像を大統領執務室に戻すほど、チャーチルを崇拝するという個人的な共通点もありました。でも、それがバイデンに代わると、これまでの特別な米英関係に陰りが出てくるのではないかと言われています。さっそくバイデンは、チャーチルの胸像を再び、大統領執務室から撤去してしまいました。
しかし、私の見たところ、大統領や首相が代わろうとも、米英関係の基本的な根幹の部分は変わらないと思います。首脳間の相性が悪くとも、米英のDNAに染み込んだ「特別の関係」は強固だからです。ジョンソンはバイデンとの関係を修復していけるのかを、今後しっかり注目していかなければならないと思います。