現実主義者・ジョンソン首相の思惑

岡部 それから、本題の「ジョンソン自身が今何を考えているか」という話ですね。やはり彼は現実主義なんですよ。EU離脱派は「鉄の女」と言われた保守党の宰相、マーガレット・サッチャー以来の保守党の本流にあたります。

つまり、EU懐疑やEU離脱が保守本流で、サッ チャーの影響が色濃く反映した伝統的な考えかたです。なぜならEU離脱は、一時の国民感情が盛り上がった偶発的なものではなく、英国民が広く共通して長期間、欧州に対して抱いていた不満に根ざした構造的問題であるためです。

▲マーガレット・サッチャー アメリカのロナルド・レーガンとともに(1981年) 出典:ウィキメディア・コモンズ

これまでジョンソンは、離脱派を中心とする保守本流に支えられながら、残留派の一部からも支持を集めていました。そこは彼の強い指導力という要素が大きいと思います。前任のテリーザ・メイ首相に指導力がなかったわけではありませんが、メイ前首相はややもすると、いろいろな人の意見を聞きすぎる「優等生」として。あらゆる人の意見を取り入れようとして決断できずに、結果として、離脱・残留の双方から反発を買って自滅したところがありましたから。混乱回避に、保守本流として離脱をやり遂げたジョンソン首相の突破力は評価していいと考えています。 

馬渕 同感です。ジョンソンの離脱実現へ向けた強引な手法を見ていて、イギリス人は妥協がうまい国民性がありますから、案外最後は収まると思いました。 

岡部 ジョンソンは、保守本流の離脱派の考えを推し進めながら、トランプやプーチン、トルコのエルドアン大統領などと同じように、パワー・ポリティクス(権力政治)の時代に強い指導者を目指して、イギリスを立て直そうとしています。  

EUから離脱して欧州という枠からイギリスを解放し、世界各国との連携によって国を活性化させていく「グローバル・ブリテン(世界の英国)」構想を掲げたわけです。  

そんなジョンソンですから、米英関係というのはイギリス外交政策にとって「一丁目一番地」 であることは十分よく理解しています。だからこそ、関係が深かったトランプ前大統領の落選が確定すると、個人的な好き嫌いを抜きに現実主義として、真っ先にバイデン大統領と電話会談に臨んだのだと思います。しかし、バイデン政権のアメリカと特別良好な関係が維持できるかどうかは、イギリス国内で疑問が持たれています。  

EU離脱後、アジア太平洋に目を向け、日本との関係を深化させながら、西側の仲間を増やしていきたいのがジョンソンの本音だと思います。EUから完全離脱したうえで、シーパワー(海洋国家)に立ち戻って、一からやり直そうとしているのでしょう。

▲現実主義者・ジョンソン首相の思惑とは? 出典:PIXTA