そもそも電子なのに、なんでやらなかったんだ?

――紙・印刷版との差異化でいうと、最近は弊社でもQRコードをつけて、動画サイトに飛ばしたりとかする書籍が増えてはいるんですけど、どうしても読み取る作業が必要でして……。

SME八島 ひと手間、発生してしまいますよね。

――はい。お客様のスキルや書店側の仕様によってしまうので 、読者から「QRコード押しても飛ばない」「どうやったら見れるのか」などの質問もいただいたりしてます。Reader Storeさんオリジナルの『月刊 off stage <オフ・ステージ>』のように、音声・動画付きでパッケージングされているような状態だと、そのまま再生できるので、すごくいいなと思いました。

SME八島 アプリで開き、ページにある音声再生ボタン・動画再生ボタンをタップしていただければ、スムーズに再生が始まります。ワンタップで一手間いらない。「そもそも電子なのに、今までなんでやらなかったんだ」と。

――オリジナル商品は、Reader Storeさんだけで配信されているのですか?

SME八島 ケースバイケースです。音声・動画付きだとReader Store専売に基本的にはなりますが、音声・動画が付いていない商品に関しては、一定期間Reader Storeで先行販売をして、それ以降は他のストアで売っていただいているケースもあります。

――コンテンツとしては、そうやって広がるのもいいですよね。

SME八島 そうですね。ストアの立場に加え、出版社としての立場でも一部ビジネス展開をさせていただいている感じです。

――そこも“総合”の書店さんなんですね。

SME八島 はい。非常に今、トレンドだと思うんです。ストアがお客様に合わせた出版まで手掛けるということは。

――そうですね。

SME八島 時代の変化を痛感しています。私自身が出版社から書店へジョブチェンジしたこともあり、うまく切り替えられていると考えています。

――オリジナル商品も展開していくということなんですが、もう少し詳しく教えてください。

SME八島 SME内に「monogatary.com」という小説投稿サイトがあります。一般の皆さんが毎日出る「お題」に対して小説を投稿するサイトなんですが、そのなかで「モノコン2019」というコンテストで大賞となった小説『タナトスの誘惑』(星野舞夜・著)をベースに制作され大ヒットした楽曲が、YOASOBIの『夜に駆ける』です。たくさんの原作が集まってきますから、その作品のなかから読んでほしい小説をReader Storeで電子書籍にして販売するということをやっています。

YOASOBIの2ndシングルに『あの夢をなぞって』というのがあるんですけど、その原作小説『夢の雫と星の花』(いしき蒼太:著)のコミカライズも出していたりしています。他にも音声付きの商品もあります。いわゆるオーディオブックです。「monogatary.com」のコンテストでの優秀作品を、声優の中村悠一さんに朗読していただきました。

――投稿サイトも盛り上がっていますね。

SME八島 YOASOBIのヒットもありまして、たくさん投稿していただいています。

――なるほど。

SME八島 出版社が発行されたアニメの原画集に、メインキャストの対談音声を付けたものもあります。声優さんたちの楽しげなコメントを聴きながら読める新タイプの商品です。DVDなどの映像作品のオーディオコメンタリーの電子書籍版だと思っていただければ。

――それはファンにはたまらないですね。

女性ユーザー向けのエンタメ本も充実

――お聞きしていると「Reader Storeなら全部のエンタメができる」みたいな感じですね。

SME八島 はい、そうなれるよう頑張ってます(笑)。先ほども話に出た音声・動画付きの『月刊 off stage <オフ・ステージ>』のジャンルは2.5次元舞台です。2.5次元舞台とは、アニメ原作や漫画原作を舞台で上演するもので、コアなファンの方がたくさんいらっしゃいます。

インタビュー後にった俳優さんの動画メッセージや音声メッセージは、そういった方々に高い評価をいただいています。

――インタビューがたくさん読めて、観劇予定のスケジュール表もついて、動画メッセージまで。そこがなんかすごく衝撃で。

SME八島 ありがとうございます。2.5次元舞台は、エンタメ好きの女性ファンが多いジャンルですので、新しいお客様としてReader Storeに来店いただけていると言う意味では、非常に良い商品として捉えています。

従来は男性のお客様が多かったんですけれど、女性のお客様にもご利用いただけるよう、こういった女性向けの商品を意識して作っているところです。

――たしかにReader Storeというと、弊社では社会政治系の書籍がたくさん売れているので男性が強いイメージでした。

SME八島 今では女性が4割くらいです。以前はもう少し男性の比率が高く、年齢も高めの方が多かったのですけれど、若いお客様のご利用も増えてきました。

――すごい! 狙いがぴったりですね。

SME八島 ありがたい限りです。

▲女性向けエンタメコンテンツなどで女性ユーザー増を目指すという

――舞台パンフレットも販売されているんですね。

SME八島 そうなんです。舞台パンフレットは出版流通にのっていませんけれど、電子版のニーズがあると考え、販売をさせていただいています。

――今は舞台に足を運ぶことが難しい時期でもありますし、チケットを持って現地に行かないと買えないものを、電子書店で気軽に買えるっていうのは、すごく魅力的だなと思います。しかも特典が付いてたりとかされていますよね?

SME八島 はい。それこそ、音声を付けたりとか。

――そうですよね。紙でも買ったけど、特典も魅力だから電子でも買う。両方買うってお客様もいそうですね。

SME八島 紙のパンフレットは、本棚に差し込んだらそのままになってしまうケースが多いと思うんですけど、電子版ならアプリでいつでも思いついた時に見直せるというメリットもあると考えました。

これは常に言わせていただいているのですが、紙は紙で素晴らしい部分を持っているので、電子版と競合するものではなく、できればお客様には両方買っていただきたい。「印刷版は保存用、たまにゆっくり時間をかけて読むために。そして日々の読書用として電子版」というのが私の理想です。

――私も漫画は両方買う派なので。それが実現、もっと多くの人に伝わればいいんですけど。

SME八島 伝えたいと思って努力しています。電子書籍のメリットは、いつでも気軽にスマホさえあれば読めること。これを、印刷版でしか購入されない人にどうやったら伝えられるのかが課題だと思います。