肉を最初から弱火で加熱することで、水分の流出は最小限ですむ

それでも、「中まで火を通しながら、しかも水分を保持してやわらかい状態で食べたい」という場合に、唯一効果的な加熱方法があります。それが「なるべくゆっくりと火を通すこと」なのです。特に、さきほどご説明した「50度前後」の温度帯をゆっくりと通過させて火を通していくことがもっとも重要です。

厳密に言えば、動物の体温、つまり40度少し前あたりから、ほぼ火が通る60度あたりまでを「低速で加熱する」のが一番重要になります。これは肉でも魚でも基本はまったく同じです。

だからこそ、すぐに火傷するほど熱くなるフライパンを使い肉や野菜を焼く場合には、できる限り温度が急激に上がらないようにする必要があり、そのもっとも簡単な方法が「最初から弱火で加熱する」ということなのです。

これが、僕がいつも「弱火」をおすすめする理由です。

一般的な家庭のコンロというのは、プロ用よりも火力が弱いと思われがちですが、家庭のフライパンは通常プロ用よりも底が薄く、また炎とフライパンの底の距離が近いのです。フライパンや鍋をのせる「五徳」という台が低い。火力が中華料理店の厨房より弱くても、フライパンにペタリと肉や野菜を置いて強火で加熱すれば、あっという間に焦げてしまいます。焦げないまでも、食材の内部への火の入り方は非常に早くなります。

これがもっとも多い「家庭で肉を焼くとジューシーに仕上がらない」理由です。

▲弱火でじっくり焼くことが肉をジューシーにする イメージ:Iryna / PIXTA