バイデン大統領がアフガニスタンからのアメリカ軍の全面撤退を発表し、8月に入りタリバンが政権を奪還したことにより、アフガニスタンではかつてのように少数民族や女性の権利を侵害する政策が展開されるのではないかと懸念されている。一方、それでも軍の撤退を進めるアメリカの念頭にあるのは「対中政策」であると、国際政治学者の高橋和夫氏は指摘しています。
国の統治に専念するか海外進出か
この8月に「戻ってきた」タリバン政権は、かつてのような女性や少数民族の権利を踏みにじる抑圧的な支配を再開するのだろうか。
タリバン指導層のなかには、さまざまな考え方があるようだ。どの考え方が主流となるのかを決める大きな要因は“外交”であろう。
タリバンは根本的な選択の問題に直面している。これまでのタリバンは、アフガニスタンに「真のイスラム国家」の建設を目指す運動であった。しかし権力を掌握した結果、同時に政府となった。政府として国民の統治に専念するのか、あるいはイスラム運動として、その活動を海外に広げようとするのか。分岐点に立っている。
アフガニスタンのイスラム教徒は、世界のイスラム教徒の支援を得てムジャッヘディーン(イスラム聖戦士)として、20世紀に超大国・ソ連を敗退させ、21世紀にはターレバンとして、もうひとつの超大国・アメリカの軍隊を撤退に追い込み、その「傀儡(かいらい)政権」を崩壊させた。
つまり両超大国を、ふたつのジハード(聖戦)で打ち破ったわけだ。宗教的な感情の高揚は想像に余りある。そのエネルギーは国内に止まるのか、あるいは外に向かうのか。慎重に見極める必要がある。
アフガニスタン周辺諸国ではテロの懸念
もし海外に打って出ようとするならば、西側先進諸国の反応など気にしなくなるだろう。となれば、国内的には旧タリバン政権と新タリバン政権に大きな差異はなくなるはずだ。
そして、海外へ運動を広めようとする場合には、タリバンは海外での活動には参加せず、アルカーイダがアフガニスタンを拠点に動く、というのが想像されるシナリオである。
その際、最初の対象は周辺諸国だろう。タリバンと同じパシュトゥーン人の居住するパキスタン、イスラム教徒が抑圧されていると認識されているインド支配下のカシミール、中国のウイグル地区、そしてタジキスタンやウズベキスタンなどの中央アジア諸国だ。
また、アフガニスタン発のテロを懸念せねばならないのも、西側諸国よりも周辺諸国になるはずだ。周辺諸国がタリバンに対して、慎重に対応している背景があると考えられる。