納得できる仕事だけを受ける状況にもっていく

――先ほどからお話を伺っていて、合理的なところと、情熱的なところのバランスがすごいなって思いました。合理的すぎると、お話を伺ってても面白くはないと思うんですよ。かといって、情熱的すぎても理屈がないと説得力がなくて。mochaさんは合理的だけど、その元をたどると火種がちゃんとあって。それがすごく面白いなって。

mocha ああ、そうかもしれないですね。やはり独立する以上は、自分の名前が出るような仕事をしたいという野心と、どこか冷静に見ているところはあったと思います。そういえば、会社員だったときのある日、上司に「mochaくんの絵は、何か違う雰囲気があるね」って言われたことがあったんです。自分としては、ほぼそのまま作風に合わせているつもりだったんですけど、どうやら上司が見たらそうではなかったようで。でも、これを私はプラスとしてとらえました。今でも、それをプラスにとらえたのが正しかったのかはわからないんですけど、自分の中にオリジナリティがあるなら、見つけてみたいと思うようになりましたね。

――好きを仕事にする“決断”も大事だと思うんですけど、それを仕事にしてからも大事ですよね。mochaさんが決めていることってありますか?

mocha 私の場合は、自分に合う仕事を選択するって決めてます。自分に合わない仕事は、お互いのために良くないですし、自信を持てない仕事は必ずどこかにしわ寄せがくるので、自信と興味が結びついた仕事を精一杯しようと思っています。

――すごく大事なことだと思うんですが、そう思っても、それをを成し遂げるのは大変な気がします(笑)。フリーという立場だと特に。

mocha (笑)。でも、やっぱり自分に合ってない仕事をやると、余計に時間がかかるんですよ。で、出来上がったものを「修正してください」って言われて、半分ふて腐れながら直して(笑)。だいたい最初の依頼のメールの時点で、合う合わないのフィーリングって、わかるんですよね。それでも、最初の頃は「合わなそうだなー」と思って受けた仕事もあるんですけど、結局は双方にとって良くない結果になるってわかりました(笑)。だから、自分の中で自然と興味が持てるものじゃないと。

――じゃあ、大きい企業案件であるとか、金銭的に良い仕事だったとしても、mochaさんの中で興味を持てなかったらダメってことですかね。

mocha そうですね。私の場合は、自主的に創作をずっとやってるんで、それこそ画集をワニブックスさんに出していただきますけど、そういった創作活動をメインでやっていると、好きじゃないのにどうしてもやらなきゃいけないことって、選ばなくてもよくなってくるんですよね。自分が納得できるかどうか、だけを判断基準にできるところにまで、自分をもっていくのが大事かもしれません。

描いたことがないものをなくして経験値を積む

――好きを仕事にしたい人はたくさんいると思うんですけど、そういった人に伝えたいことはありますか?

mocha “好き”な気持ちの大きさって、きっと人それぞれだと思うんですね。私が思うのは、その大きさで優劣が決まるものではない、ということ。そして、何かにつまづいいたときや、傷ついたときにに支えてくれるものが、“好き”な気持ちかも私にはわかりません。ただ、自分の作品を好きだと言ってくれる人に支えられることは多いと思っています。

――なるほど、自分の気持ちと同じくらい、他者の“好き”という評価も大事、ということですね。

mocha そうですね。私のようなイラストレーターを目指している人に、個人的にオススメしたいのは、自分の作品についての感想を言ってくれるお客さんがいるイベントに、積極的に参加してみることですね。客観的に自分を見るのはとても難しいことなので、誰かの表情や言葉から自分の作品を見つめるのが大事だと思います。

――イラストレーターを目指している人に、もっと具体的なアドバイスはありますか?

mocha 人物にしろ動物にしろ建物にしろ、とにかく“描いたことがないものをなくしていく”、というのが大事だと思います。やはり大事なのは経験値なんですね。私はよく「絵を描くのが早い」と言われるんですけど、でもそれって条件はみんな同じなんですよ、手が3本4本あるわけじゃないので(笑)。自分としては電卓を打つのが早い人と同じなんです。つまり、考える時間がほとんどない。

――なるほど。頭より先に手が動いてる感じですかね。

mocha そうですね。あとは、最初からこれしか描かない!って決めるんじゃなくて、描いたことないものを1つずつ潰していく。例えばゲームの背景って、ショッピングモールを描くこともあれば、森を描くことも、異次元空間みたいなものを描くことも、全部の可能性がある。それって、いきなり描こうと思って、パッと納得のいくものを描けるもんじゃないんですよ。でも以前に1度でも描いてたら、前に描いたときは、あの辺を失敗したから、今度は違うアプローチでやってみよう、とかができるんですよね。

――すごく勉強になったと思います! 10月8日に発売される画集『Empathy』ですが、こちらはどういう作品に仕上がってますか?

mocha 画集には、図録のような作品をたくさん並べて一枚一枚を見て楽しむものと、写真集のように流れがあって1冊で1つの作品のように感じられるものがあると思ってます。この 『 Empathy 』は後者で、あえて空間をあけたり、各絵のサイズ感を変えたり、意図したリズムを用意してます。SNSで流れてくる絵を眺めるのとは、また違った面白さがあって、映画やドラマで言うところの演出がある画集ですね。見ていただいた方に満足していただけるよう願ってます。


▲mocha画集『Empathy』
 <書籍情報>
タイトル:mocha画集『Empathy』
著:mocha
定価:2,300円(税別)/電子:2,200円(税別)
発売日:2021年10月8日
判型:A4判ソフトカバー / 128ページ
発売元:ワニブックス