知名度抜群! 日本の原風景を訪ねて

浦佐駅に近づく新幹線の車窓から見えたのは、さざめく稲穂が織りなす黄金色の波だった。ゆかしい気持ちを掻き立てられる日本の原風景――EXITの萎えぽよエリア活性化ツアー、7公演目は人口35,000人の新潟県魚沼市である。

魚沼といえば誰でも瞬時に「コシヒカリ」をイメージする日本一の米どころ。最高級ブランド米の生産地が「萎えぽよ」エリアなわけないじゃん、と思いつつ駅に降り立ったのだが、そこは想像を越える、のどかな田園風景であった……。

新幹線が停まる駅なのに、周辺が栄えている様子がない。とりあえず駅の観光案内所に入り、いくつかの酒蔵や有名なおむすび屋さんを教えてもらったのだが、行ってみたい! と思う場所はどこも絶妙に遠く、交通の便があまりよろしくないため、下手に動けばライブの入り時間に遅刻してしまいそうだ。

▲魚沼は黄金色の季節。EXITの2人も稲刈りを体験した(その模様は「EXIT Charannel」で見られる)

さて。一体どこに行ったらいいのだろう――スマホを取り出し調べてみる。困ったときはEXITのファンクラブ『entrane』の掲示板『萎えぽよエリアの魅力を教えて!』をチェックだ。

すると、地元のジッター(EXITファンの総称)さんによる「『魚沼の里』がおすすめです! 山と田んぼに囲まれた“これぞ新潟”な風景の中にあります」という書き込みを見つけたので、そこに行ってみることにした。

浦佐駅から車で15分ほどのところにある『魚沼の里』(※)は、日本酒「八海山」で知られる八海醸造が運営している複合施設。およそ7万坪にも及ぶ広大な敷地内に、酒蔵にビールの醸造所、日本酒を貯蔵する雪室(ゆきむろ)のほか、カフェや蕎麦屋、ベーカリーに売店などがある。この日は天気がよかったこともあり、広い里内の散策がただただ楽しい。頭上に青空、目には緑、道端にはコスモスが揺れていて最高の気分だ。
(※)正確には南魚沼市内の施設

まずは施設の目玉でもある「雪室」を見学させてもらった。

▲八海醸造の雪室。この建物の中に天然の雪を利用した巨大な貯蔵施設がある

魚沼は毎年2~3メートルもの雪が積もる豪雪地帯。その雪を有効利用した天然の貯蔵庫が雪室である。八海醸造では出来上がった酒を、この雪室に入れて保存しているのだが、雪室の中は年間を通じて3~5度、ほぼ一定に保たれているので品質管理がしやすいのだそう。

ひんやり肌寒い内部の温度は、このとき5.2度。室には最大36万リットルの酒(と言われても膨大すぎてピンとこないのだが)を長期保存できるらしい。

毎年2月に入れるという雪の重量は1,000トンにも及ぶが、9月中旬の時点では、最初に入れた量の2/3ほどまでに溶けて減ったそう。溶けきらないうちに新しい雪が積み上げられるので、てっきり雪山の内部には永久凍土のような何十年か越しの雪が残っているのかと思ったが、実際は地熱によっても溶けるので、3年くらいでほぼ全てが入れ替わるらしい。

▲2月に入れた1,000トンの雪は、9月中旬の時点で2/3ほどになっていた

ちなみに、室内の冷気はダクトを通して館内の冷房にも使われているそう。エコである。見学ルートの終わりには、試飲カウンターで醸造された日本酒や焼酎の味見をすることができる。私は日本酒が飲めないので試飲している人を見ていただけだったが、皆さん数種類を飲み比べて楽しそうにしていた。

雪室でジッターと遭遇!

ふと見渡すと、なんとEXITのツアーTシャツを着た人を発見! 声をかけて少しお話する。私と同じくFCの掲示板を見てここに来たという坪井さんは、この直前に『清津峡』という絶景スポットに行ってきたそうで、きれいな写真をいくつか見せてくれた。幻想的な渓谷の風景がとても美しいこの場所を、事前に調べて訪ねたとのこと。

「ライブで行く土地のことを調べて巡るのはいいですね」と言うと、坪井さんは「地方活性化ツアーなので」とニッコリ。もちろんコロナ禍で制限はあるけれど、EXITの2人の意図はちゃんと伝わっている。

▲『魚沼の里』で会ったジッターの坪井さん

雪室を出たあとは外を歩きながら、美しい山並み、木々、そして一面に広がる田園風景を堪能。途中、敷地内にある神社に寄ったり、社員食堂で八海醸造オリジナルの柚子風味の甘酒を飲んで一休みしたりして、時間はあっという間に過ぎた。

『魚沼の里』からはタクシーで、今日の会場となる『魚沼市小出郷文化会館』に向かう。運転手さんは既に2回、駅から文化会館にお客さんを送ってきたそうで「今日は久しぶりに忙しいです。これまで何度か芸能人が来たことはあったけど、こんなにタクシーがひっきりなしに出たことはないですよ」と驚いていた。

魚沼で生まれ育ったという運転手さんに、地元の良いところを尋ねると「のどかなところが好きですね。自慢はやっぱり米と酒です。水がいいですから」

道中、国道沿いで見かけた「コイン精米所」という小屋が気になったので運転手さんに聞くと、新潟の家庭では米を玄米のまま保存し、コイン精米所でその都度、精米するらしい。料金は10キロで100円くらいとのこと。

「丁寧な食べかたをしてるから、おいしい米がさらにおいしくなるんですね」と言うと、運転手さんは「特にこだわってるわけじゃないんですけどね。ずっと、そうやって食べるのが当たり前だと思ってたんで、これが珍しいっていうのも知らなかった」と、精米所の写真を嬉々として撮る私を見て笑っていた。

▲国道沿いのコイン精米所。精米して出たぬかを持ち帰り、ぬか床を作る人も多いそう