男性同士の性愛を現す言葉「男色」。「実は男色が日本の歴史を動かしてきた!」なんて言われると、ちょっとびっくりしますし、にわかには信じがたいですが、オカマ目線で歴史を見ていくとウン、ウンと頷くことばかり。自ら「オカマ」と名乗る山口志穂が語る「オカマのワクワク日本史」。あなたは、日本で初の女装家はヤマトタケルで、日本で初めて男装したのがアマテラスオオミカミだったってこと、知ってましたか?

日本で最初に男装をしたのは誰でしょう?

日本で最初の男装、男の格好をした女の人として記録されているのは誰でしょうか。

アマテラスオオミカミです。多くの人が剣道の道場なんかに「天照大神」「天照皇大神」の掛け軸が飾ってあるのを見たことがあると思いますが、その天照大神です。

子どもだと「テンテルダイジン」と読み間違えそうですが「アマテラスオオミカミ」と読みます。「皇」の字が入ることもあるように、皇室のご先祖の神様です。

ちなみに漢字がなぜ2種類あるかというと、音だけで伝えられてきた言葉に、あとから文字を付けたからです。「天照」は太陽のことですし、神様の中でも特に大事な神様なので「大神」です。この方は、女神様です。

▲天照大神。岩戸神楽ノ起顕(三代豊国) 出典:ウィキメディア・コモンズ
▲天岩戸神話の天照大御神(春斎年昌:画/1887年) 出典:ウィキメディア・コモンズ

では、なぜアマテラスが男装をしたのか。弟の須佐之男命(スサノオノミコト)が原因です。スサノオも神話の世界では有名人で、ヤマタノオロチを退治したヒーローです。ところがそのスサノオは、若い頃はマザコンで、シスコンでした。

わが国最初の歴史書である『古事記』、わが国最初の国史である『日本書紀』には、日本列島を作ったのはイザナギ、イザナミの夫婦だと記されています。「国産み神産み」です。スサノオは二柱の最後の子です。

スサノオは、父のイザナギから海の統治を任されたのに「死んだお母ちゃんに会いた~い!」と駄々をこねまくるので政治にならず、そのマザコンぶりに呆(あき)れたイザナギに勘当されたあと「お母ちゃんに会いに行く前にお姉ちゃんに挨拶しとこ!」と高天原(たかまのはら)に向かいます。高天原は天上界です。その高天原を統治しているのがお姉さんのアマテラスです。

スサノオ、性格はマザコンでシスコンの甘ったれですが、図体はデカイ。スサノオが歩いて向かってくるだけで地鳴りがしたほどです。だからアマテラスは「スサノオが高天原を奪いにきた!」と大パニックになりました。そこでアマテラスが取った行動を『古事記』から紹介しましょう。

即(すなわ)ち御髪を解き、御(み)みづらに纏(ま)きて、乃(すなわ)ち左右の御みづらにも亦(また)御鬘(かづら)にも、左右の御手にも、各八尺(やさか)の勾(まがたま)璁の五(いおつ)百津のみすまるの珠たまを纏き持ちて、そびらには千入(ちのり)の靫(ゆき)を負ひ、ひらには五百入(いおのり)の靫(ゆき)を附け……
次田昌幸『古事記(上)全訳注』講談社学術文庫/1977年

アマテラスは、男装して誤魔化しました。自分の髪を解いて「みづら」という男性の髪型にしました。

そして、武装してスサノオを天安河(あめのやすかわ)という高天原に流れる川で待ち構えたとあります。弟が会いに来たら武装して待ち構えるとは随分な話で、このあとの展開もおもしろいのですが本筋ではないのでカットします。

とにもかくにも、日本史上最初の男装はアマテラス様、皇室のご先祖様です。