いい酒場は人の想像力を掻き立てる

知らない街を歩いていた。なんの変哲もない通りの途中に、小さなお店があった。通り過ぎてしばらくたっても店の残像が頭に残って、気になって仕方ない。来た道を戻り店に入る。そこはまるで天国のようだった。今回はそんなお店のお話です。

▲突然現れますから見過ごし注意

坂道と石畳で有名な神楽坂から、少し西にはずれたあたりに牛込神楽坂という町があります。古くからある住宅街で、有名人も多く住んでいるとか。駅から高級で静かな街並みを歩くこと数分、通りから一本道を入ると、小さな小さな酒店があることに気がつきます。

街の風景にそっと溶け込んでしまっているから、最初はその存在に気づかず見過ごしてしまいそうになります。

▲お酒はなんでも揃います

中に入ると、立ち飲みのテーブルがいくつか。飲み屋さんのようですが、壁に酒が並んでいるから、酒屋さんであることがわかります。こちらは、いわゆる街の酒屋さんが進化した立ち飲み屋。飲める酒屋といえば角打ちですが、こちらは角打ちから、もう一歩先に進んだ素敵な店なんです。今日はこちらをご紹介しましょう。

▲お茶割りが充実しているのは常連さんの好みでしょうか

飯島酒店は古くからこの地に店を構える酒店で、現在の3代目が角打ちを始めたとか。店内に入ると、大きな冷蔵庫と立ち飲みのテーブルが目に入ります。

夕方に訪れたのでスーツ姿の男性たちで混んでいたのですが「いいよこっちにおいで」と相席させてくれたのは、常連らしき老紳士。周囲を見れば、皆さん勤め人のようですが、仕立てのいいスーツを着ている方が多い気がする。

きっと周辺の大企業にお勤めの方なんだろうと推察します。だから、皆さん飲み方がスマートで、気持ちのいいお客さんばかりなようです。

▲下町のソフトドリンクを頼みます

冷蔵庫の前を何度かウロウロした結果、焼酎ハイボールをチョイスします。シャリキンホッピーも魅力的だったけど、一杯目はシンプルにいきたい気分だったので、クセのないこの一本を選びました。ということで、今日も昨日もお疲れ様。乾杯!  ああ、やっぱり酒はうまい。明日もきっとうまいことでしょう。

▲今日の格言「悩んだときはチーズを選べ」

こちらのお店は、角打ちスタイルなので、つまみは最低限の用意しかありません。置いてあるのは缶詰や乾き物が主で、さくっと飲んだら次に行くスタイルは角打ちならではですね。

ただ「普通の角打ちと違う」と感じるのは、距離感です。お客さん、お店の方、そして異邦人である私たちの距離がとても近く感じるんです。

一言でいうなら、実家に帰ってきたような温かさといいましょうか。初めて訪れた方でも、きっと居心地がいいと感じるのではないでしょうか。

▲常連さんたち

店内には常連さんらしきグループがいくつかあって、皆さん楽しそうに飲んでいます。単身の年配の方もいて、同じく一人でいらした常連さんと楽しそうに話を始めます。定年を迎え、悠々自適の生活を送っていて、夕方のこの一杯が楽しみなのかな、なんて。ああ、余計なお世話ですね。いい酒場は人の想像力を掻き立てる力があるのかもしれない。