世界のCO2排出量の約30%は中国

加藤 なんといっても、世界のCO2排出量の3分の1は中国ですからね(※図参照)。日本は3%。中国は2030年までは排出量が増える見込みです。中国のCO2を抑えない限り、世界のCO2は減らない。企業のトップは、そのことを十分にわかっていても、なかなか口に出さない。

 

岡崎 政治については専門外ですが、これまでクルマを通してさまざまな企業の経営者のスピーチを見聞きしてきましたが、トップが骨太な理念を語らなくなった会社というのは、だいたい落ちていくんですよ。落ちていくところのトップというのは、数字のことばかり言うんですね。

やっぱり、理念とかビジョンをバーンと出して「みんな、そこに向かって頑張っていこうよ」という企業のほうが間違いなく伸びています。同じように、政治のトップにいる方にも、そこが一番求められているのだと思うのですが、それがまったく伝わってこないですね。

池田 政権の人気取り、グリーン政策を進めて「世界のためにいいことをしています、僕たちいい人です」というのを、世界にアピールすることを優先するのではなくて、我が国がちゃんと豊かになって、経済的にみんなが幸せになっていくことこそが目標であって、そこをうまく本音と建前を包み込んで実現していくのが政治家の胆力でしょう。だけどもう、上っ面だけで話している気がするんですよね。

加藤 特に今、自動車産業は世界で勝ってる数少ない日本の産業ですからね。

岡崎 そうです。だから、それを必死で維持していかなければいけないんですけど、そのための理論武装を一切することなく、単に首脳会談やCOP26などの国際会議の場で、環境政策が遅れていると言われるのが「ちょっと嫌だな、肩身が狭いな」ということだけで「こんなん作ってみました」みたいな感じがあります。軽いんですよ。

加藤 必死で頑張っている自動車産業を疲弊させるようなことになったら悲しいです。

池田 世界の先陣を切っている自動車産業には、本当に頑張っていただきたい。

岡崎 「日本の自動車が頑張れば、日本国民全体が豊かになるんだ」というビジョンを、皆さんともっと共有したいですね。

加藤 「中国製造2025」は、殖産興業政策をとった明治日本の理念と重なります。まさに、製造大国を超えた“製造強国”を作っていくことが、国家の繁栄を築いていき、国家国民のために国を富ませるのだと、そういう明治日本の気概です。

でも、今の日本にはその精神がごっそり抜け落ちています。「世界を救う」とか「地球環境にいいことをする」といった耳ざわりのいいことは抵抗なく言えても、政治家が「自分たちの国のために尽くす」「国益のために尽くす」と主張すると、どうしてもナショナリスティック、エゴイスティックに捉えられてしまう。

そういうムードのなかで、政治家がグローバリズムに走り、国の産業の将来や、製造業を強くすることに本気で取り組んでいないと、残念ながら思いますね。

▲日本は製造大国を超えた“製造強国”になれるのか? イメージ:Fast&Slow / PIXTA
※注1 【中国製造2025】
国家戦略。製造強国戦略。中華民族の偉大なる復興のため2015年に発表。2025年までに製造強国入り、建国100周年(2049年)までに製造強国のトップグループ入りを果たすためのロードマップ。

※注2 中国共産党の「千人計画」
2008年に設立した海外ハイレベル人材招致計画。今や産業育成の推進ではなく“他国からの技術流出を推進する計画”と認識されている(マネーの力で技術者や学者を招聘)