EVバッテリーで半導体と同じ轍は踏みたくない
池田 これまで「国外で作ってもいいじゃないか」という考えで、半導体はやってきたわけじゃないですか。「設計を国内でやっておけば大丈夫」と言っていた結果が、今の半導体の体たらく。そして、自動車では「EVのバッテリーを国内で強化しよう」という話には、まだちょっとなっていない。
「少しまずいんじゃないか?」という気配や焦りは見え始めてきましたけど、前菅政権の成長プラン、要するにグリーンとデジタル戦略で190兆円も成長させるという話の軸のなかには、バッテリーの生産、半導体の増産、これらを国内に何がなんでも取り戻す……という計画は織り込まれていないわけです。そのうえでのEV化……これはどういう話ですか、中国さんに作ってもらうんですか? ということですよね。
加藤 仰る通りです。
岡崎 僕もそうは思いたくないんですけど、政府資料を見ていると、急いで作ったんだな、海外がそうやっているから日本もそうしたのかな……という印象が否めません。「グリーン投資を通して成長するんだ」という内容は、欧州のグリーン・ディールとそんなに変わらないんですよね。
でも、欧州では、バッテリーを自分たちの域内で作ろうと動き始めている。そういう意味では、今のところ日本は掛け声だけにしか見えませんね。デジタルとグリーンと言われても、具体的なものが浮かぶ方は少ないと思うんですけれど。これはどういうことだと見ています?
池田 結局ね、僕には“隣の芝生”に見えるんですよ。今まであんまりやってこなかったことでしょう、デジタル化にしてもグリーン化にしても。だって、ハンコを押さないと書類が出せないみたいな世界にいて、政治家が「ハンコをなくします!」とわざわざアピールしなきゃならないレベルですからね。それが世界と戦う戦略になるんですか、という話ですよ。
いろんな評論家の方たちも言っているように「中国にはやられるぞ、負けるぞ」と、みんな思っているわけじゃないですか。でも、それって実際、中国に負けるのは日本の産業じゃなくて日本の政治が、でしょう。日本の産業を成長させるべきときに、トンチンカンな政策を立てているのは誰ですか、と問いたい。
本当に投資だけでいけるのか? 日経平均が上がればそれでいいのか。中国は製造こそが唯一無二の方法だと言っていますよ。「中国のあんな成長なんて、屁でもないんだ。我々にはこういった戦略がある」と言えるんだったらいいけれど、それだけの強い戦略性を感じますか?
岡崎 いや、ないですね。
加藤 この国の現在には、国家の目標や戦略が見えません。国力を増やすのであれば、屋台骨をしっかりさせなければならないでしょう。製造業を重要産業に位置づけなければなりませんが、位置づけているとは言えません。そんなことでは、日本国民の未来に関心があるのかどうかも心配になります。
池田 これは、あくまで私個人の考えですが……かつて、半導体製造が日本で焼け野原になっていきました。本来なら政府は、その途中段階で半導体メーカーにヒアリングして「君たちが生き残って世界での地位を残していくために、政府は何をすれば勝てますか?」と聞くべきだったのに、政府が勝手に舵取りをしてみんなを合併させて、水と油みたいな会社を混ぜてしまった。
意見の統一ができないような体勢を作っておいて、その挙句に「政府が外注しましょう」みたいな作戦を立てていっちゃったわけじゃないですか。それと同じ匂いが今、EV化のところにはあるわけですよ……。
岡崎 同じ轍は踏みたくないですね。
池田 だから、自工会の会長として、豊田章男さんがあれだけ激しい非難をしたわけじゃないですか。非難というと、あの人は嫌がるかもしれないけど、僕らから見たら、やっぱりあれは政府への反抗だったんですよ。
豊田会長の言い分をちゃんと聞いて、そのために政府が何をサポートすれば日本の自動車産業が勝ち残れるのか、それをしっかり考えるべきなのに「投資したら儲かるから」とかいうわけのわかんない話に着地しちゃう。本当にわからないですよね。
加藤 「地球環境を良くする」「CO2削減」が政府の「グリーン成長戦略」の最終的な目標であって、“国の経済を強くして、国民の生活を豊かにする”が国家の目標になっていないのではないか……と思えてしょうがないですね。
岡崎 “地球のために日本国民は犠牲になれ”としか聞こえません。