素直に答えられなかった最後の質問

9日目。この日から12日目までは、最初の1週間と同じことが繰り返された。そして13日目。取調官からの呼び出しで房から出たが、普段とは内容が違った。

「お前は明日でここを出る。明日の昼に家庭裁判所で判決を受けるんだ。どんな判決が出ても受け入れて、心を入れ替えるんだぞ?」

判決は鑑別所か少年院の2つに1つ。どっちになるかで大きく違う。鑑別所は数ヶ月だが、少年院は数年と聞いていた。この日は、最後の日の夜ということで、特別に入浴の時間を与えられた。

14日目。家庭裁判所に行く前に、最後のベランダ空間での時間が与えられた。トイレの水を流してくれなかったときに、鉄格子に本を投げつけて一触即発になった看守が見張りについた。いつものように背伸びや深呼吸をして、5分が経った。そのまま房に戻ろうとすると、看守は僕を引き止めて言った。

「今日で最後か。これだけは覚えといてほしいんだけどさ。ここを出て、街で俺を見かけても襲わないでね」

思わず吹き出した。彼らも人間なのだ。たしかに彼とはいろいろあった。だが薬の手配をしてくれたのも彼だし、隣の房にいるヤクザに注意をしてくれたのも彼だ。今の彼に、なんの恨みもない。

「そんなことするわけないじゃないですか」

こうして誰かと笑って言葉を交わすのは久しぶりだった。そして房に戻って、身支度を始めた。昼ご飯を食べて、あとは裁判所からの呼び出しを待つだけだ。

「45番。時間だ」

この名前で呼ばれるのも今日で最後。牢の施錠が解除されて、手錠をかけられた。看守に連れられて、出口で待っていた警官のところに向かった。引き渡しが終わって、警官が歩き始めた時に、僕は立ち止まった。

「何してるんだ? 行くぞ」

「お世話になりました」

後ろを振り返って、看守に頭を下げた。看守は軽く微笑んで頷いた。もう二度とここには戻ってこない。そう固く誓って、留置所をあとにした。

いつもとは違う出口から出て、近くに止めてあった警察車両で家庭裁判所に向かった。そこには母もいたが、話すことはできなかった。法廷に入ると、裁判官や他の数名が先に座って待っていた。すぐに裁判は始まって事実確認をされた。全て認めたが、最後に聞かれた質問にだけは素直に答えられなかった。

「反省してますか?」

「父や母を悲しませたことは反省しています。でも、多勢の武器を持った相手が奇襲をしてきて、戦ったことは悪いと思っていません」

「そうですか。状況を見ても逃げることができたはずです。その状況で武力行使に出るのは正当防衛とは言えません。よって、反省の必要があります。鑑別所への収監を言い渡します。期間は4週間です」

余計なことを言わなければ、鑑別所に行かなくて済んだかもしれない。咄嗟に口をついて出た言葉だった。母の表情は曇っていた。

鑑別所で同部屋になった3人の男たち

鑑別所とは一体どんな所なのか、想像もつかない。

来るときに乗ってきた車で、次は鑑別所に向かった。外観は警察署とあまり変わらない。着いて最初にしたことは、身体検査だ。ただの身体検査ではない。お尻の穴まで開いて担当者に見せるのだ。こんな屈辱は他にない。こんなところに何かを隠した前例があるなら仕方がないと、自分に言い聞かせる以外に受け入れる方法はなかった。

用意されていた青色のジャージに着替えて、部屋に案内された。牢屋というよりは部屋。電気があって窓も大きいが、部屋は狭い。留置所と同じくらいの広さだが、自分のほかに先客が3人いる。同世代の男2人と、外国人が1人。軽く会釈をして自己紹介をした。

「どうも、福田です」

3人は温かく出迎えてくれた。彼らの名前は『小池良輔』『三上裕太』『エルビン』。このときは、あとで番号に振り回されることになる僕を、エルビンが救ってくれることになるとは思っていなかった。

「45」は、次回2/4(金)に更新予定です。お楽しみに!!


プロフィール
 
福田 健悟(ふくだ けんご)/吉本興業所属
平穏な家庭に育つも、高校生になり不良の道へ。地元、岐阜県で最大の規模を持つ不良チームのリーダーとなる。18歳の頃、他チームとの抗争が原因で留置所に2週間、鑑別所に2週間の計4週間を更生施設で過ごす。週に1回の入浴、美味しくないご飯、笑うことが許されない環境で生活をして当たり前の日常の大切さに気づく。そもそも子どもの頃になりたかったのは、お笑い芸人だった。周りにナメられるのが嫌で言い出せなかった。不良を演じて虚勢を張っていた。出所後は本当の自分になることを決意し、お笑い芸人を目指して上京する。わずか10万円を握りしめての東京生活。コンビニでアルバイトをしながらも舞台と日常を分けずに常に芸人としての自分を貫く。すると近所で評判のコンビニ店員になる。「あのお兄さん大好き」「接客のプロ」とたくさんの称賛をいただきながら実感する。人は変われる——。世間から忌み嫌われていた不良が世間から愛される人間に更生した。人生における全ての「負」から立ち直った経験を生かして、他人のありとあらゆる「負」も更生する。つまらない時間を面白い時間に「更生」するため、お笑い芸人として活動中。Twitter→福田健悟@ganeesha_fukuda