“絵本”“贈り物”“ことば”から連想した名作『ごんぎつね』

もちろん、絵本も相当うれしかった。何を隠していたわけでもないし、むしろ大っぴらにする。コヌマは絵本愛好家だ。ハードルが上がってしまっては困るので、断っておこう。「絵本マニア」や「絵本オタク」を自称できるほどの知識は持ち合わせていない。ただの絵本好きだ。

せっかく、絵本とプレゼントと「ことば」が話題にのぼった。というわけで、これからある有名な絵本を、いつもの本の紹介コーナーで今月の一冊として取り上げようとおもう。

プレゼントの絵本というと、クリスマスの愉快なお話など、明るいイメージが強い。しかし、明るさは1ミリたりとも存在しない、いや、これは人によっては少々言い過ぎとおもうかもしれないので訂正。ハッピーエンドとは言い難い、『ごんぎつね』も、贈り物が絡んだお話と言えるのではなかろうか。

キツネという動物を愛し、多くの作品の題材にした新美南吉によって生み出された悲劇の童話。もし、わたくしが幼児期〜学童期にかけての必履修科目を選定する委員になったならば、新美南吉作品のうちいずれか、という項目をつくりたい。

なにせあまりに広く知られ、教科書にも掲載されている作品のため、あらすじは割愛、いたしませぬ! みなさまの記憶掘り起こし作業を、ぜひともお手伝いさせてくださいませ。また、『ごんぎつね』をまだ履修でない方がこれを読み、かじろうかなという気持ちになっていただけたら、とも思っている。

子狐のごんには両親がおらず、村人を困らせるために悪戯を繰り返していた。村人の1人である、兵十が捕まえたウナギや魚を逃がしたのも、その悪戯の1つであった。しかし、10日ばかり経ってごんは、自分が兵十を困らせるためにした悪戯を後悔する。なぜならば、兵十の母親の葬列を見て、自分が逃がしてしまった魚などは、その母親のために捕ったものであったと気がつくからである。

ごん自身、母親がいないため兵十に同情して償いをしようと試みる。だが、鰯屋から鰯を盗んで兵十の家へ投げたことで、兵十は泥棒の罪を着せられ殴られてしまう。ここでまた、ごんは反省して、次からは栗や松茸を拾っては兵十の家へ届けることにする。もちろん何も知らない兵十は、なぜ毎日届け物があるのかわからず、加助という知り合いに言われた、神様のおかげ説を信じ込むのだ。

割に合わないと思いつつも、ごんは毎日せっせと届け物をする。そして運命の翌日。ごんが家に忍び込んだのを発見した兵十は、また悪戯をされてはたまらないと思い、家から出ていくごんを火縄銃で撃ってしまうのだ。ごんに駆け寄った兵十、そこであることに気がつく。土間に栗が固めて置いてあるではないか。栗や松茸の贈り主は、今しがた自分が撃ってしまった子狐だったのだ。

そして、切ないラストシーン。兵十が「ごん、おまいだったのか。いつも、栗をくれたのは」と問うと、ごんは頷くのだがもう目は開かない。兵十が手から落とした火縄銃の筒口より、青い煙が出ている描写でお話は終わりとなる。

▲ある日の美容院帰りのコヌマです

「ことば」はバッドエンドをハッピーエンドに変える力がある

あまりにも悲しい。しかし、幼児期〜学童期にこれを読了することで、世の中は喜劇と悲劇が混在している事実を容認できるのではないか、ともおもう。さらにコヌマ的見解を続けさせていただく。ごんが、もし「ことば」を駆使していたならば……。そして「ことば」を用いて兵十へ謝罪できていたならば……。

「物語が変わってしまうだろ!」ツッコミ、ごもっともだ。そう、「ことば」は、バッドエンドを、ハッピーエンドに変えるかもしれない力をもっている。「ごんぎつね」はわたくしにとって、「ことば」が秘めるパワーを思い出させてくれるステキな絵本だ。それは、当たり前で、だからこそ忘れがちなのである。この記事の最初のほうで紹介した父からの「ことば」は、わたくしの心を春色に染めてくれた。

わたくしも、みなさまを幸せ沼へ誘えるような「ことば」をたくさん発信できるよう、日々精進いたしまする。とはいえ、ごんが兵十へ贈り続けた栗や松茸を否定するつもりは毛頭ない。むしろ、それらを受け取っていた兵十が羨ましいとおもう。いやまてよ、よくよく考えてみたまえコヌマ。いくら好きなもので、さらに送料が負担されていたとしても、贈り主が身元不明であったなら大いに、相当、頗(すこぶ)る訝(いぶか)しがるだろう。

それでもきっと一瞬、うれしさに目をくらませる。そんな存在が、プレゼントというもの。匿名の贈り物のあとで、親しい友人からTELがあり「あなたにいつもありがとう、のプレゼント、届いた?」と、尋ねられる。その一言が添えられるだけで、心置き無く、心ゆくまでプレゼントを喜ぶことが可能になる。

ごんに足りなかったものを、わたくしたちは補える。幸せ沼のみなさま、ごんの分まで、「ことば」で幸せを増やそうではないか!