中国で行われている「臓器狩り」。中国分析のベテランジャーナリストであるイーサン・ガットマン氏は、深い取材により政府の迫害を受けた人々や、元共産党員から「実体験」を得ることができたという。そして、無実の人々からの臓器収奪は現在も続いているが、この問題の本質は“中国だけ”というわけではないのだ。中国で渡航移植する「移植ツーリズム」の実態とは?

臓器移植への待機期間は平均約2年だが・・・

私は米国の心理学者を両親に持ち1960年代に成長した。幸か不幸か子どもながらに、政府に従わないソビエト連邦の市民は、精神病院に送り込まれることを知っていた。

私の両親は、他の心理学者と同様に、ロシアの反体制派が系統的に拷問を受けているという報告を懸念していた。

▲ソ連の精神医学制度は危険なレベルにあったという イメージ:radnatt / PIXTA

1971年以降、世界精神医学会はソ連の精神医学会を常に非難していた。ソ連の精神病院の視察ツアーは、消毒された正面玄関やポチョムキン村(見せかけの施設)を見せるに過ぎないと思われていた。ソ連の精神分析家は、欧米の学術会議では歓迎されず、欧米の学術誌に研究成果を発表することもできなかった。学術交流は禁止され、向精神薬の共同開発もなかった。

なぜ精神科医は、これほど不躾で厳格にソ連を締め出したのか? ソ連の精神医学制度下での医療濫用は危険なレベルに達しており改革不可能であるという、自由主義社会では稀に見る合意があったからだ。

当時のソ連では、正気の人間を幽閉するために「緩慢な統合失調症」といった独特の診断をしていたのだ。西ヨーロッパ・日本・アメリカ・オーストラリアは、この“ソ連ウイルス”を止めることはできなかったが、“隔離”することはできた。

皮肉なことに、当時のソ連の精神病院で起こっていること以上に、現在の中国の移植病院で起こっていることを我々は把握している。

中国の国家が支援する、法輪功からの臓器収奪を考えて欲しい。その証拠は2006年から浮上している。デービッド・キルガーとデービッド・マタスの報告書『Bloody Harvest』(『戦慄の臓器狩り』)が起点だ。

ぞっとする題名とは裏腹に、同書は冷静沈着な基礎調査であり、法的な準備書面と言える。世界では移植への待機期間は平均約2年だが、中国ではわずか2週間である。中国本土への病院への電話調査も収録されている。医療関係者が、法輪功の臓器を売りにして、相手を説得しようとしている。中国の移植産業の規模は、法輪功臓器の入手状況にかかっているかのような会話だ。

キルガーとマタスの報告書『Bloody Harvest』はオンラインで発表されており、グーグル検索で簡単に見つかる。

無実の人々からの臓器収奪は現在も続いている

2016年、デービッド・キルガー、デービッド・マタスと共著で、各々の著書を更新するという形で、『Bloody Harvest/The Slaughter:An Update』(『中国臓器狩り/臓器収奪―消える人々〈更新版〉』)と題する700ページ近い報告書を発表し、中国本土での実際の移植件数は、中央政府が公表する件数の6倍から10倍であることを示した。この件数の違いが、良心の囚人の臓器で埋められている。

もう少し説明しよう。ここ10年間、中国の医療当局は、中国での移植件数は年間1万件と主張してきた。しかし、移植の認可を受けた典型的なセンターは146あり、それぞれが3~4の移植専門チームと、移植患者専用の30~40の病床を備える。術後の回復に20~30日。国外からの渡航移植者を算入しなくても、中国国内での移植待ち患者は30万人だ。

術後の回復にあてられた専用ベッドが、最低40床あるとする146の病院が、1日に1件(年間365件)移植手術を行っていると仮定しただけで、移植数は年間に軽く5万件を超える。政府発表の1万件を遥かに超えた数字だ。

移植の種類別に、移植認定病院/移植センターに課せられた(移植活動、病床数、手術に関わるスタッフなどの)最低要件も考慮して算出すると、年間8万から9万件に達する。

さらに、天津市第一中心医院には年間5000件の移植をこなす設備がある。政府発表の年間1万件という数字はどう説明すればいいのか? 北京の解放軍三〇九医院は? 広州の中山大学附属第一医院は? 例を挙げればキリがない。詳しく調べると、1日平均2件まで移植手術が行われていることが判明した。つまり年間10万件を超える。

ここで上げた数字は中国国家が公式発表した数値ではなく、病院のホームページ、医学論文、毎週発行される看護師専門誌に掲載された医師へのインタビューなどに基づくものだ。