党大会に向けて始まった続投擁護派と阻止派の攻防

石平 さらに注目すべきは、前述の同党委公報が習のことを「永遠に擁護する」と表明した点です。秋の党大会で、習総書記が慣例を破って続投を目指していることは今や公然の秘密。その肝心なときに、同党委が習への永遠擁護を表明したということは、誰が見ても習近平続投に対する支持の意思表明であり、終身独裁を擁護するものです。

共産党の党規約上では本来、習の総書記職続投を決めるのは、党大会で選出される「共産党次期中央委員会」の権限です。その党大会すら開催されていないのに、党の一地方委員会が習の続投を求める公式文章を堂々と出したことは、明らかな“越権行為”であり、党規約への重大なる違反で、処罰されてもおかしくない事例です。

同党委は公然と、このような下克上的な挙動に打って出た。普段ではありえないことです。おそらく、これは習主席自身、あるいはその周辺の意向を受けての行動でしょう。

▲習近平思想を掲げる深圳の看板 出典:ウィキメディア・コモンズ(パブリックドメイン)

私の分析では、党中央において自らの続投に対する強い抵抗を受けている習主席と、その周辺が地方から続投擁護の声を上げさせて、中央突破を図ろうとしているのではないかとみています

同党委がその第一声を上げたわけですが、習主席の歓心を買うためにそれに追随する地方党委員会がこれから続出するでしょう。肝心なときに習擁護の姿勢を鮮明にすることは、地方党委員会の責任者たちにとっては出世の早道になるからです。

ただし逆にいえば、これは習続投をめぐる党内闘争の激化を意味しています。習が最高権力の座にいるこの10年間、国内では経済の冷え込みが進み、国民の不平不満は高まる一方です。

外交的には中国の“孤立化”が深まって、中国包囲網ができ上がりつつあります。船が沈むことを憂える党内勢力は、習の続投を極力阻止しようとするでしょう。一方、習陣営はどうしても実現させたい。党大会に向けて、この両派の攻防が始まっているのだと思います。

エルドリッヂ 習近平政権の独裁体制も盤石ではないということですね。ゼロコロナ対策によりそれが揺らいでいる。しかし、政権が強固であってもなくても、台湾侵攻に打って出ることに変わりがないことを、私たちは肝に銘じておくべきです。

※本記事は、石平×ロバート・D・エルドリッヂ:著『これはもう第三次世界大戦どうする日本』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。