身についた「質実剛健 百折不撓」の精神
ブラジル留学を終えて、日本に帰ってきたのは中学3年生の夏。
約半年前の年末年始にも一時帰国し、今後の進路について両親や柴田先生と話し合っていた。一度は現地のプロサッカーチームの育成組織に所属するという話でまとまったけれど、実際に数ヵ月過ごしても手応えがあまり感じられなかった。
そういった経緯を踏まえて、日本の高校に通うほうが選手としての将来につながるのではないかと思い、帰国を決断。その後は地元の中学校に通いながら、SSSのジュニアユースでプレーすることに。けれど、進学先を決める大事な時期に、サッカー人生で初めてのスランプに陥ってしまう。
小学生時点でのパフォーマンスや知名度は、北海道のなかでトップクラスの評価を得ていたと思う。全国大会に出場した経験があったし、北海道選抜の中心としてプレーもしていた。それなのに、ブラジルから帰ってきた頃の僕は、思い描いているプレーをまったく表現できなくなっていた。
周囲から「ブラジルへ行って、どれだけすごい選手になっているんだろう」と好奇の目で見られていたのは間違いない。そんな周りの視線を意識しすぎるがあまり、プレッシャーとなり悪循環にハマっていった。
「ブラジル留学してこの程度か」と思われているのでは? と疑心暗鬼になり、成長を表現できない歯がゆさに悶々としていた。
とはいえ時間は待ってくれず、夏が終われば、いよいよ進路を選択していく時期となる。有望な選手ほど、早い段階で高校サイドからスポーツ推薦の誘いがかかり、進学先が決まっていくのだが、僕の場合はなかなか話が進まなかった。
そんなタイミングで、小学生時代にチームメイトだった先輩が通っていた北海高校の練習に参加させてもらうことに。最終的になんとか推薦の話をもらえて、そのまま入学する道を選んだ。
北海高校サッカー部には「素晴らしい選手である前に素晴らしい人間でいよう」という教えがある。
そのため1年生は最初の1ヵ月間、練習にまったく参加させてもらえない。何をするかといえば、ひたすら河川敷を走るのみ。さらにそこで目上の人へのあいさつや話し方など、礼儀作法とサッカー部のルールを徹底的に叩き込まれる。豊平川に向かって何度叫んだだろうか。大声を出す訓練で歌った『かえるの合唱』も、周りに響き渡っていたはず(笑)。
サッカーをするために入学した僕らにとっては、ちょっとした理不尽な状況だ。この段階で退部した人間もいる。
その反面、これは大人になったからこそわかることだけれど、世の中にはもっと理不尽なことがいくらでもある。やりたくないけれど、やらないといけないシチュエーションもたくさんある。それでも根気強く続けるからこそ、目標を達成できるのだろう。そう考えれば、このエピソードは、つまり世の中の縮図なのだろう、と(苦笑)。
『質実剛健 百折不撓』
これは北海高校の教育方針だ。四字熟語が組み合わさって仰々しく感じるが、学校生活や部活動での体験は、この8文字に集約される。
ブラジル留学がきっかけで「どうするべきか」を思考するようになり、高校時代にどんな困難にあっても挫けず諦めない強い意志を養った。
北海高校で過ごした3年間は、僕のなかに息づいていて、人生において決して欠かすことのできない必要な時間だったと言える。インターハイに出場し、国体のメンバーにも選ばれたように、サッカー選手としても成長できたけれど、それ以上に礼儀作法や謙虚さなど、人間として生きていくうえで大切なものを教わった。
卒業して20年以上経った今も、高校3年間の学びを毎日の生活で心がけている。