ロシアによるウクライナ侵攻と同じように、台湾併合の準備を始めている中国。すべての条件が満たされたら、中国の台湾侵攻は成功してしまうかもしれない。中国がS400を久場島に配備すれば、沖縄本島の米空軍嘉手納基地は射程圏内に入り、無力化されてしまう危険がある。
中国と中国人の裏のウラまで知り尽くした石平氏と米国の政治学者であるエルドリッヂ氏がこの二人だからこそわかる視点から、中国と米国の「本音」について精魂を込めて語り合った。「日本のための防衛論」。
中国が台湾併合の準備を始めたと思われる理由
石平 習近平政権の動きを具体的に見ていきたいのですが、中国は着々と台湾侵攻の準備を進めていることがわかります。私が気になったのは、2021年通年で中国の食糧輸入は、1億6453万トンと過去最高記録を更新したことです。前年比で18.1%も増えているのです!
問題なのは、2021年の中国は凶作だったわけではないことです。同じ税関の発表によると同年の食糧生産量はやはり過去最高記録の、約6億8000万トン。国民一人当たりで487キロと食べきれないほどの量です。すなわち、国内の食料生産量が最高記録を出した年に、輸入量も過去最高になったということです。これは食料備蓄など露骨な戦争準備の一環ではないかとも考えられます。
いずれもウクライナ戦争が始まる前年の動きですが、習近平政権は来るべき戦争準備に余念がないように見えます。
エルドリッヂ 同感です。それに加えて、近年の中国には2つの動きがありました。
1つは軍民融合政策が進んだことです。国防動員体制の整備に加え、有事に民間インフラを活用するために、軍事目的を可能にする設備のシステム化と訓練が行われています。
たとえば、中国遠洋集団(COSCO)、招商局集団(Sinotrans)、中国交通建設集団(CCCC)といった海運企業も、企業民兵として部隊に編制され、民間のカーフェリーを軍が使用できるようになっているのです。
2020年に行われた統合軍事演習では、民間のカーフェリーであるRo- Ro船を、車両搭載用ランプ(傾斜路)強襲上陸作戦用に改造したものが参加していました。
また、学校教育では政治色が強まり、習近平主席を崇拝させる内容になっているのも気になります。上海にいる中国人の友人は、それがイヤで娘をイギリスに留学させることにしたそうです。このように中国は、思想的な教育で人民を統制する体制になっているのです。
石平 産経新聞の矢板明夫さんによると、いま台湾のネットでは「ゼレンスキー・ウクライナ大統領は実はポーランドにいる」「台湾有事の際に、米国は絶対に台湾を助けない」といった中国発の虚偽情報が毎日のように流れていると言います(2022年4月5日『産経新聞』)。
台湾の情報機関「国家安全局」の陳明通局長は「フェイクニュースは、人民解放軍の戦略支援部隊や関連部署に発したものが多いと確認されている」と答弁し、日々対策に追われているようですが、すでに中台間での情報戦は始まっているのです。
石平 私には軍事的知識が乏しいのでお伺いしたいのですが、今の中国軍に台湾に上陸して制圧するだけの実力はあるのでしょうか?
エルドリッヂ あります。台湾と中国の軍事力の差は相当に開いています。海兵隊の大先輩の話によると、中国軍がそのような力を行使できるようになったのは、2015年からだといいます。
石平 2015年から!
エルドリッヂ 相手国、敵国を判断する際には、能力と意志で分析する必要があると思うんです。日本の平和主義者たちは、中国には侵略する“意志”がないことを強調します。より現実的な識者でさえ、熟柿戦略をとっているので中国は侵攻を急ぐ必要はないと言います。いずれも意志をあてにしている見解です。
それに対して、意志はあるけれど“能力”がないというのが保守系知識人です。軍事力、経済事情、国内問題などを列挙し、中国及び北朝鮮の実力を軽視する傾向があります。しかし、意志と能力の両面で分析しなければ本当のことはわかりません。
誰でもわかることですが、台湾侵攻において、中国に地理的な優位性があることは間違いありません。先にあげた人たちは、中国の台湾海峡を渡る困難を言いますが、アメリカが太平洋を渡って台湾へ向かうよりは、ハードルはずっと低いのです(笑)。
しかも、人口的にはアメリカを圧倒している。海軍力も中国軍のほうが台湾軍より高い。さらに軍民統合政策で民間のものも戦争に導入できる。そして、この70年間に台湾国内での親中派工作も進んでいる。
政治家や政府の関係者を買収したり、スパイを育ててきました。有事になると、潜伏している彼らが破壊的な行動を起こすでしょう。また、台湾国内で中国に協力し、統一をしたいという中国寄りの「大陸派」もいます。
加えて国防動員法があるので、台湾在住の中国人はもちろんのこと、日本及びアメリカ、その友好国が台湾の防衛作戦に集中できないように、各国で何らかのトラブルを起こすことも想定できます。今は中国が圧倒的有利と言わざるをえない状況です。