「2人ともさぁ、本気で言ってるの? もう目覚ましなよ! 今まで黙ってたけど、山内くんの話は嘘だよ」。バイト先に遊び来る由美子の一言で走る衝撃。スノボー、暴走族時代、リズムゲーム、そしてみんなが心配した手術の話もすべて嘘だったのか。動揺する福田健悟たちだが、ついにそのパンドラの箱を開けるときがきた。

冷静に振り返ると辻褄が合わないことばかりだった

CIAの諜報員? さすがに事実とは思えない。由美子の言うように、山内くんの今までの発言は、全て嘘だったのか? もしそうなら、僕たちは2年間も騙され続けていたことになる。振り返ってみよう。最初に出会ったのは、後輩の森田がキッカケだった。山内くんは、森田にこう言った。

「死にたいです」

これは嘘ではないと思う。あのときの、山内くんの顔は死んでいた。その後は転職をして、見違えるように良い顔つきになった。趣味でスノボーを始めるようになって、生き生きしていたのも嘘ではない。毎週金曜日に板を持って店に来ていたし、本人が滑っている動画も見た。格好良いウェアを着て、ゴーグルをはめて、ヘルメットを被っていた。ゴーグルとヘルメットのせいで顔は見えなかったが、背丈や体格は同じくらいだった。

証拠の写真は他にもある。山内くんが暴走族に入っていた頃の写真。全員が特攻服を着て、後ろ姿で立っていた。後ろ姿で……。今になって思えば、彼の顔が映っている写真は一度も見たことがない。あのときは、他に写真がないと言われて、鵜呑みにせざるを得なかった。お客さんの言うことを疑うわけにはいかない。気づいたときには、違和感に蓋をすることが当たり前になっていた。

100万円の賞金が懸かったリズムゲームの大会で、上位に食い込んでいた山内くん。タイミングがピッタシ合えば、パーフェクト。惜しければグレート。その下はナイス。外せばミス、と画面に表示される。動画で見る限り、彼のプレイは、難易度MAXのステージで全てパーフェクト。このとき、由美子は動画を見ながら思っていたのだ。映っている指が、本人の指より太かった、と。

「それ、なんで言わなかったんだよ!」

「言えないよ! 店長と福田さん、2人して信じ込んでるし、3人は仲良さそうだったから」

振り返ると、辻褄の合わないことは多かった。店長は山内くんと一緒にポケモンをやっていた。夏の暑い日に、外に出てポケモンを捕まえているときに、暑さをしのぐために2人はゲームセンターに入った。そこには、山内くんの得意なリズムゲームが置いてあった。

「おぉ、山内くん! 実力を見せてくれよ!」

「いやぁ、最近あんまりやってないんですよ」

「いいじゃん、いいじゃん」

そう言われて、彼は渋々ゲーム台に立った。前回の動画を見たときは、全てパーフェクト。だがゲームが始まると、ミス、ミス、グレイト、ナイス、ミス。途中まで、動画を撮っていた店長は、何も言わずにスマホをポケットにしまった。同時に、目の前の惨劇も、胸にしまっていた。