安さを追い求めたことで下がっていった自給率

――新型コロナウイルスが感染拡大を見せた2020年5月には、トイレットペーパーやマスクの品薄が問題視されました。食料だけでなく日本全体の供給力も脆弱なイメージがあります。

藤井 その通りです。先進諸外国は、農産品に限らず、あらゆる商品の自給率を一定以上に確保することを国是としています。そもそも、貿易における自由主義と保護主義のバランスを取ることは国家運営の基本中の基本。しかし、日本では保護主義に対する意識が低く、自由主義を過剰に重視しています。国産品よりも安い商品があれば、国産品よりも輸入品を購入することを奨励する傾向が強いです。

――「安い=良いこと」という認識は根強いですよね。

藤井 その結果として、食料のみならず、エネルギー自給率が異常に低い水準に陥っています。とりわけ半導体の自給率の低さは深刻です。

――「半導体不足」はニュースでよく耳にします。

藤井 かつて、半導体は日本のお家芸であり、世界シェアも半分以上を獲得していました。しかし、昨今では中国や台湾に追い抜かれ、今では最高品質の半導体は自給できない状況にあります。半導体は昨今のあらゆる電気製品に使われており、“工業製品の米“と言われるほど重要です。それが自給できない現状を鑑みると、日本はもはや工業立国ではないことを示しています。

賃金は下がるのに物価は上がる

――ちなみに「インフレ=経済成長」と捉えることもできますが、いま現在起きているインフレはどのように分析していますか?

藤井 現在の日本は、全品目のインフレ率が高まっています。しかし、食料品とエネルギーを除いた全品目のインフレ率「コアコアCPI」という尺度を見ると、しつこく下落、もしくは横ばい傾向が続いています。

――この傾向から、どういうことが読み解けるのですか?

藤井 このコアコアCPIは、私たちの賃金上昇率に結び付いています。コアコアCPIが下落・横ばいということは、“私たちの賃金は下落傾向にある”ということが言え、現時点では、“賃金は下がるのに物価は上がる”ということになります。この現象は一般的に「スタグフレーション」と呼ばれており、通常のインフレ、通常のデフレよりもさらに深刻です。

▲賃金は下がるのに物価は上がる イメージ:xiaoping / PIXTA

――日本は、もはやインフレでもデフレでもない絶望的な状況なのですね。

藤井 はい。通常のインフレなら、モノの値段も上がるけど給料も上がるため、そこまで苦しくないです。通常のデフレなら、賃金も下がるけど物価も下がるため、賃金下落の被害は一定軽減されます。しかし、今日本で起きているスタグフレーションでは、モノの値段が上がっているのに賃金が引き下げられているため、今後、私たちの生活の恐ろしいほど困窮するのです。