こだわりを英語にするとSticking(スティッキング)。創作におけるスティッキングな部分を、新進気鋭のイラストレーターに聞いていく「イラストレーターのMy Sticking」。

今回は、動物たちが文明を持ったらどうなるか? をコンセプトにイラストやストーリーを考えている、動物文明史研究会の白井賢一さんに創作のうえでの「Sticking(こだわり)」を聞いてみました。

現実にないことをいかに“有り得そう”に見せるか

――このインタビューではイラストレーターの方々にこだわり、Sticking(スティッキング)を聞いているんですが、動物文明史研究会さんの活動のきっかけについてお伺いしても良いですか?

白井賢一(以下、白井) 本職で3D映像制作の仕事をしていたのですが、会社の同僚と仕事以外で創作活動してみようという話になりまして、その同僚が動物好き(なんならケモナー)で、じゃあ動物を起点に何かデザインしてみようというところが、そもそもの始まりだったかと思います。

――そういうきっかけがあったんですね。

白井 じゃあどんなデザインにしていくか、となったときにオリジナルなものを見せたいなと考えたんです。体は人、頭は獣、というのは普通だし、これまでもどこかで見たことがあるし、自分たちが面白くないなと思って。動物たちが文明を持ったら、という発想にいきついたんです。

――そのなかでも『自動販売器で暮らす鳥』や『動物に住む動物達』というアイデアは、かなり異質で魅力的ですよね。

白井 ありがとうございます。「動物たちが文明を持ったら」という話し合いの中で、自然と出たアイデアだったんですが、真面目に考えていくとすごく深かった、というのが今も楽しくやれている理由だと思います。いろいろアイデアを考えていくうちに、こういう表現をやっている方はすぐに思い浮かばないし、良いところ見つけたかも! とワクワクしました(笑)。

▲『自動販売器で暮らす鳥』『動物に住む動物達』著:動物文明史研究会(BOOTHにて販売)

――作品を作っていくうえで、こだわっていることはありますか?

白井 “なるべく”真面目に考えたリアリティですね。現実世界では、ヒト以外で文明を興せた試しがないので、それが起こりうる可能性を見つける為にネットや本を漁りまくりました。もともとはオタクに毛が生えた程度の知識しかなかったのですが、それまで読まなかった本も読むようになったし、稀に論文に触れるようにもなりました。ただ読むスピードが遅い人間なので、本以外のさまざまな情報も「動物が文明を興すには?」のフィルターに通し続けて、だいたい2~3年くらいで世界観が構築できてきました。

――ずいぶん長く作られていたのですね。

白井 はい。ただ残念なことにエンタメの世界において、リアルはあまり必要ありません。見る人を説得できるリアリティを考えるのが、費用対効果のある手段です。そう考えると自分のやってることは、かなりの遠回りな創作活動なのですが、ここまで続けてるのは、誰も手を付けていない、まだ見たことのない世界が魅力的だったからなのかも知れません。ただそれでもいつか形にしないといけないので、リアルを見て精一杯絞り出したリアリティが私たちの個性なのかと思います。