僕の過去のヤンチャ時代や鑑別所での経験を、アルバイト仲間の森田くんは「本にしてほしい」と言ってくれた。こんな自分でも誰かを感動させることができるかもしれない。はじめの一歩――その瞬間から、「45」こと福田健悟の人生は大きく前に進み始める。

武田鉄矢さんのエッセイ本から得た読書の持つ力

昔の僕は、本が嫌いだった。読書イコール勉強、というイメージが強かったからだ。今は、豊臣秀吉の人たらし術を学ぶために、歴史の本も読んでいる。“人たらし”は、人気商売で成り立っている芸人の仕事には、欠かせない要素だ。自分がしたいことをするための勉強は、苦痛に感じない。

子どもの頃も、ゲームの攻略本や漫画など、興味のある本なら喜んで読んでいた。漠然と将来のために必要と言われて、強制される勉強は苦痛でしかなかった。鑑別所の中が暇だから、という理由で始めた読書のおかげで、自分のしたいことが見つかった。

まともな人生を歩みたい。本は自分のしたいことを叶えるだけでなく、自分のしたいことを見つける役割も、兼ね備えている。手に取ったのは、武田鉄矢さんのエッセイ本と、元暴力団員の本。どちらも、更生を促すような内容だった。

全ての本を読んだわけではないが、鑑別所に置いてある本は、似たような内容の本が多いと思う。武田鉄矢さんの本には、母に対する懺悔や感謝が綴ってあった。元暴力団員の本には、人は変われるというメッセージが綴ってあった。どちらも真面目な内容だ。もちろん、鑑別所に馬鹿げた本は置いていない。自分が書く本も、同じような内容になりそうだ。

とはいえ、僕は芸人。さんまさんや、江頭さんのように、真面目なイメージは隠すべきなのではないだろうか。そう思ったが、他にアイディアが思い浮かばなかった。

まず『小説家になろう』のサイトに飛んで、概要を見た。このサイトから人気になった作品は、出版される可能性もあるとのこと。ただ出版するには、最低でも10万文字は書く必要があるらしい。いまいちピンとこない。10万文字というのは、多いのか? 少ないのか? まぁいい。とりあえず書いてみよう。

1話、2話、3話と書いた段階で、9日の時を費やした。3日で1話のペース。1話あたり約2000文字。つまり、10万文字の文章を書こうと思ったら、完成するのは約半年後だ。こんなに大変な作業なのか。1冊ですら書けるかどうかわからないのに、プロの人たちは何十冊と書いている。今まで読んだ本の正確な文字数はわからないが、物書きを本業にしている人たちの労力は計り知れない。

『小説家になろう』に掲載する前に、森田に1話目を読んでもらった。

「いいじゃないですか。早く次が読みたいです」

「おぉ、マジで? ありがとう」

期待に応えて、1話目から3話目まで一気に見せたかったが、思いとどまった。もし今すぐに3話目まで見せてしまったら、4話目を見せることができるのは、1ヶ月くらい後になる。次の話までの間隔が空きすぎると、飽きられてしまう可能性がある。たとえ森田が飽きなくても、他の人たちまで同じ反応になるとは限らない。そう思って、毎週1話ずつ掲載できるように、書き溜めていくことにした。

実際に3話目以降は、ストーリーが進むにつれて、手が止まるようになっていった。このままだと、完成するのは約1年後になる。暇潰しで始めた執筆活動だったが、1人でも喜んでくれる人がいるなら手は抜けない。安藤さんから学んだばかりだ。対価があろうがなかろうが、人の笑顔のために人生を懸ける。それが『一生懸命』になるということだ。そう思って、僕はできるだけ書き溜めてから、掲載することにした。